体重100キロでもロナウドを起用して2ゴール…他を圧倒しているアンチェロッティの“選手を見極める能力”

2023年01月19日 小宮良之

「選手次第でチームのプレーも変わる」

持ち駒を活かすという点において抜群の手腕を発揮するアンチェロッティ監督。(C)Getty Images

 いかに選手を見極めるか。
 
 結局、それが大きくモノを言う。強化も、指導者も、それができなかったら、ほとんど話にならない。どれだけ御託を並べても無駄だろう。
 
 しかし、その目を持つことが難しい。
 
 例えば、選手の能力値を数値化し、グラフにしたりすることがある。俊敏性、持久力、パワー、ボールテクニック、ビジョン、創造性、献身性。それぞれの項目を解析するわけだが、それらは一つの参考になったとしても、できることできないことを見つけるだけで、選手を画一的に扱うことになり、本質は見えないだろう。
 
 スカウティングは、その「平均点」とは逆のところにある。

「走るな」
 
 スペインでは、今でもストライカーにはその教えが今も息づく。現代サッカーではディフェンスを求められる。しかし、どこで折り合いをつけ、シュートの力をためられるか。それは自分の裁量で、力を使い切ったらシュートシーンでパワーが出せない。得点を取るために自分のポジションを取り、ボールを呼び込み、ゴールに蹴り込む、その図太さが欠かせないのだ。

「ポストプレーがうまい」
「プレスの強度が高い」
「サイドにも流れる」
「カウンターでスピードが武器」
 
 FWを評価する要素として、どれも挙げられる。現代サッカーでは必要とされるポイントだろう。しかしそれができても、得点力のないFWは評価されない。

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 当たり前のことを書くようだが、カリム・ベンゼマ(レアル・マドリー)、ロベルト・レバンドフスキ(FCバルセロナ)、アーリング・ハーランド(マンチェスター・シティ)など世界一流のストライカーは、いずれもゴールを量産している。ゴールに導くアプローチの質はどれも高いが、ゴールに向かって一直線にプレーできたら、それがベストなのだ。

 強化は、各ポジションの本質を見極め、監督に提供すべきだろう。

「選手はそれぞれ能力を持っていて、当然ながらそれぞれキャラクターがある」
 
 そう語るカルロ・アンチェロッティ監督は、まさに慧眼の人だ。

「ACミランの監督時代、ロナウドが100キロの体重で来てね。さすがに試合前に、『体重を減らす必要があるんじゃないか?』って話したんだが、彼は『何をしろと言うんだい?走るためだったら、僕をベンチに置いて。得点するためだったら、プレーさせてくれ』って答えた。それで試合に出したら、全く走らなかったけど、2得点したんだ」

 アンチェロッティ監督は、選手を見極める能力が他を圧倒している。例えば、カゼミーロも簡単に放出。それはオーレリアン・チュアメニで計算が立ったからだ。

「自分はミラン時代、アンカーにアンドレア・ピルロを起用した。選手次第で、チームのプレーも変わるのさ」

 選手のキャラクター、特徴を見極めてプレーモデルを決められる指揮官が、「名将」と崇められるのは当然だ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。
 
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