最後のロッカールームで、なぜ昌平・津久井主将は後輩たちに厳しい言葉を投げかけたのか【選手権】

2023年01月03日 森田将義

「周りには“大丈夫、大丈夫”と言っていたのですが…」

卒業後の鹿島入団が決まっている津久井。後輩たちに想いを託して、最後の選手権を戦い終えた。写真:梅月智史

[高校選手権3回戦]昌平 1-2 前橋育英/1月2日(月)/浦和駒場スタジアム

 裏抜けを得意とする俊足のFW上野旭陽(3年)のスタメン起用がうまくハマり、開始3分に先制点を奪った昌平。だがそれ以降は、前橋育英が見せた素早い攻守の切り替えに苦戦を余儀なくされる。

 代名詞であるテクニックの高さを活かした攻撃が見せられず、シュートも3本に終わった。「中盤のところで、思いのほか行けなかった。もう少し自信を持って行けられるよう促していたのですが、うまく行かない時間が長かった」と振り返るのは、藤島崇之監督だ。

 いつもの積極的なプレーを出せない攻撃陣たちを後ろから眺めていたDF津久井佳祐(3年)はいら立ちを隠せなかった。「プレスが速いだけいつものプレーができないんだろうと思っていた。逆に自分は今日、いつものプレーができていたので、ビビらなくても良いだろうと思ってイライラしていました」。

 スタメンの半数近くを占め、「アイツらのおかげで、ここまで来られたと思っている」と口にする下級生がのびのびとプレーできるよう、試合中は「リラックスして」と優しい言葉をかけ続けたが、試合を終えてロッカールームに戻ると、こんな言葉をかけたという。「後ろから見ていて1、2年生の出来は、今までで一番ダメなプレーだった。お前らのせいだよ、俺はお前を許さない。自分たちを踏み台にして良いから、もっと上を目ざしてくれ」。

 選手権で負けたチームの3年生が後輩たちに優しい言葉をかけるのは定番かもしれない。あえて突き放すような厳しい言葉をかけたのには、「励ますのも良いけど、それではアイツらの力にならない」との考えがあったからだ。

 後輩を想う気持ちとともに、この大会にかける想いの強さがあったのは確かだ。夏のインターハイは準々決勝で右足首脱臼、靭帯断裂の重傷を負い、津久井不在となったチームは準決勝で敗れた。シーズン中の復帰さえ危ぶまれたが、懸命なリハビリと仲間の支えによって驚異的な回復を見せ、選手権予選の終盤から復帰。高校生活最後の舞台となる選手権は、日本一が目標だった。

 誰よりも熱い気持ちを持っていただけに試合終了を遂げる笛が鳴り響くと、ピッチから立てなくなった。

「試合が終わるまでは、しっかり笑顔で楽しもうと思って楽しんでいたのですが、終わった時に悔しさが出た。インターハイの怪我が本当に辛くて、周りには"大丈夫、大丈夫"と言っていたのですが、自分の中では本当に悔しくて、一気にフラッシュバックした。周りからはありがとうと言われたけど、返す余裕はなかった」
 
 相手ボールをいとも簡単にマイボールにしてしまう守備能力の高さとともに、想いの強さも印象的だった主将は、卒業後、鹿島アントラーズに進む。

「ラヴィーダではボールの持ち方、昌平ではキャプテンにしてもらって人間性を学べた。中学からの6年間で育てられたと思う。レベルが違うのは分かっているので、プロの世界でこの6年間で得たものを発揮していこうと思います。高みを目ざしてやっていきたい」

 そう口にする彼なら、プロでもやっていけると太鼓判を押せる。そして、彼の姿や想いを学んだ後輩たちもさらに強くなれるはずだ。

取材・文●森田将義

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