【連載】月刊マスコット批評⑤「パルちゃん」――正念場のオリテンマスコット

2015年11月10日 宇都宮徹壱

J2でもファンを癒すことができるか?

人気低迷が囁かれるパルちゃん。J2降格をキッカケにその境遇を変えられるか? 写真:宇都宮徹壱

パルちゃん(清水エスパルス)
 
■パルちゃんの評価(5段階)
 
・愛され度:3.5
・ご当地度:3.0
・パーソナリティ:4.5
・オリジナリティ:3.5
・ストーリー性:4.0
・発展性:3.0
 
 J1のセカンドステージ最終節を待たずに、来季のJ2降格クラブが決まった。清水、山形、そして松本である。それぞれの所属選手の去就も気になるところだが、個人的に注視しているのが「マスコットたちの来季」である。果たして彼らはJ2という異なる環境のなか、きちんとファンを癒やすことができるのだろうか? 
 
 松本のガンズくんについては、わずか1シーズンでのJ2復帰となるので、それほどやさぐれることはないだろう。山形のディーオも降格は初めてではないし、あのポジティブなキャラを考えると心配する必要はなさそう。むしろ心配なのは、清水の彼、である。
 
 パルちゃんといえば、かつてはJリーグマスコット界を代表するスターであった。ホームゲームで繰り広げられる『パルちゃんショー』では清水サポはもちろんのこと、アウェーサポをも魅了するほどの芸達者ぶりで話題となった。今ではマスコットが芸をするのは当たり前となっているが、オリテン(オリジナル10)マスコットのパルちゃんは、その嚆矢であった。
 
 その後もパルちゃんは、清水の黄金時代をなぞるようにメディアへの露出を増やし、08年にはグランパスくんとの共著で本まで出している。今にして思えば、この頃がパルちゃん人気のピークだったのかもしれない(ちなみにこの年の清水はリーグ戦5位、ナビスコカップは準優勝)。
 
 昨年、清水の公式サイトに衝撃的な画像がアップされて話題となった。新静岡駅でチラシを配るパルちゃんを通行人(若い女性だった)が完全スルーしていたのである。しかも彼の周りにはほとんど人が見当たらず、さながら場末の商店街の着ぐるみのような風情さえ醸し出していた。
 
 人気マスコットの指標とも言えるJリーグマスコット総選挙でも、13年が16位、14年が17位、15年が16位と、ずっと中位をさまよっている。「パルちゃんの動きにキレがなくなった」と囁かれるようになったのは09年であったが(同年にデビューした東京ドロンパとの関連を指摘する声もあるが、ここでの言及は控える)、そこから人気の陰りが一気に鮮明になったと記憶している。
 
 決して人気にあぐらをかいていたわけではない。妙な方向に迷走してファンを減らしたわけでもない。むしろ目まぐるしい時代の変化に対応できず、気がついたら取り残されてしまった、というのが実態に近いのではないか。前述のとおり、もはや芸をするマスコットは珍しくないし、若くて愛くるしいマスコットはその後も次々に登場している。ただでさえ存在感が希薄になりつつあるなかでの、クラブ史上初となるJ2降格。そのダメージたるや、いかばかりであろうか。
 
 もっとも今回の降格は、パルちゃんが変わるひとつの契機となるかもしれない。かつてはカッコよさで鳴らしたあのヴェルディくんが、J2に降格してからメタボ体質の自虐ネタで笑いを取るようになった事例もある。来季、J2から再出発するパルちゃんと清水の捲土重来を期待したい。
 
宇都宮徹壱/うつのみや・てついち 1966年、東京都生まれ。97年より国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。近著に『フットボール百景』(東邦出版)。自称、マスコット評論家。公式メールマガジン『徹マガ』。http://tetsumaga.com/
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