【松本】崖っぷちで戦い続けてきた田中隼磨は、苦渋に満ちたシーズンにどんな決着をつけるのか

2015年10月25日 広島由寛(サッカーダイジェストWeb編集部)

報道陣の質問に対し、言葉を詰まらせて……。

同じ過ちを繰り返し、それでも改善策を示すことができない。チームのポテンシャルを信じているからこそ、勝利が遠い現状に、田中(3番)はもどかしさ、歯痒さを感じているはずだ。写真:徳原隆元

 負ければ、降格が決まるかもしれない――鳥栖との一戦はそんなゲームだった。
 
 しかも、今季のホーム最終戦である。いつものように多くのサポーターたちがアルウィンに駆けつけてくれている。不甲斐ない戦いを見せるわけにはいかなかった。勝利を掴み、残留の可能性を少しでも広げようと必死に戦った。

【J1 PHOTOハイライト】2ndステージ・15節
 
 65分、オビナのPKで先制に成功した。しかし、その後、力強さと連動性を兼備する鳥栖の攻撃に耐え切れず、痛恨の2失点……。一度は手中に収めたかに思えた勝点3は、あっけなく滑り落ちた。
 
――ホーム最終戦、振り返っていかがでしょうか?
 
 報道陣の質問を受けた田中が、答えるまでに一瞬の間があったのは意外だった。
 
 すべての試合を取材しているわけではないので断言できないが、少なくとも記者が見てきた限りでは、いかなる結果に終わろうとも、ミックスゾーンでの田中はよどみなくポジティブな発言を口にしてきた。どんな時も常に前を向いて、気持ちを切り替えていた。
 
 そんな男が、言葉を詰まらせていた。ほんの数秒間の沈黙が、この敗戦のダメージの大きさを物語っていた。
 
「……勝たなければいけないという状況のなかで、勝つことができなくて、非常に、残念ですけど……はい」
 
 J1の厳しさを誰よりも知る田中は、チームの「力のなさ」をしっかりと理解したうえで、「底知れぬポテンシャル」も信じて疑わない。それなのに、何度も同じ過ちを繰り返しては、それを肌で感じているにもかかわらず、自分も含めて改善策を示せていない現状に、悔しさ、もどかしさ、歯痒さを感じているに違いない。
 
「一瞬の隙だったり、何回かのミスが重なって、失点してしまった。どう気を付けていいのか、言葉で表わすのは難しいですけど……」
 
 今季も残りあとわずか。年間16位の降格圏に沈む松本には、「(同15位の新潟に対し)勝点差6で、得失点差が少し離れているなかでのラスト2試合」(反町監督)が待っている。今節よりもさらに追い込まれた状況に置かれたが、瀬戸際に立たされたシチュエーションは、田中からすれば今に始まったことではない。
 
「俺は開幕戦から、崖っぷちで後がないと思っていた」
 
 そんな心理状態で、背番号3はここまで戦ってきた。心が折れそうになる時もあったかもしれないが、決してファイティングポーズを崩さず、先頭に立ってチームを引っ張ってきた。
 
 次節のアウェー神戸戦で、松本の運命は決まってしまうのか。「今に始まったことではない」と田中は言うが、今度こそチームの底力を見せなければならない。
 
 そして、喜びよりも苦しさのほうが上回っているかもしれないシーズンに、"山雅の魂"はどんな決着をつけるのか。最後までその戦いを見届けたい。
 
取材・文:広島由寛(サッカーダイジェスト編集部)
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