W杯開幕直前にイランとチュニジアを襲う出場取り消しの可能性。その舞台裏に迫る。代替候補には強豪国の名前も?

2022年11月09日 リカルド・セティオン

22歳の女性が警察に暴行され死亡

ここにきてW杯参加取り消しの可能性が浮上しているイラン(上)とチュニジア(下)。(C)Getty Images、(C)JFA

 ワールドカップ開幕まで秒読み段階に入ってきた。大会でプレーする選手たちも決まり始めてきているが、ここにきてW杯出場が危ぶまれるチームが出てきた。それも1つではなく、2つもだ。

 1か国目はイラン。その理由は人権問題だ。イランでは女性の自由が極度に制限されているが、それはサッカーの世界でも変わらない。イランの女子選手はヒジャブ(ベール)で頭を隠し、膝下まであるような長いゲームパンツをはかなくてはいけない。

 女性の試合観戦は2019年より認められるようになったが多くの規制がある。中に入れるのは毎試合50人くらい、割り振られる席はスタジアムの隅のピッチも見えにくいような場所だ。また実際は入場さえも認められない場合もあり、チケットを持っていても門前払いされるケースも少なくないときく。

 FIFAはこうした差別を改善するよう何年も前からイランに注意してきたが、一向に改善される様子は見られない。

 そして今年の9月、ヒジャブの被り方が悪かったと言うだけで22歳の女性が警察に暴行され死亡した。イラン国内ではそれに対する抗議デモでもが行われたが、そこでも多くの人が殺された。これをうけ、イランの様々なスポーツの現役もしくは元有名選手たちが声を上げた。
 
 約200人からなるグループの中にはイラン代表のレジェンドであるアリ・ダエイなどもいる。彼らはFIFAに書簡を送り、イランのW杯出場を撤回するよう要求した。自国政府の差別や暴力を止めるにはこの方法しかないと彼らは主張する。

「世界で人気の高いサッカーは、我々の声を伝える最高の方法だ」

 2004年に拷問を受け、その後ドイツに亡命した元空手チャンピオン、ジャファルグリザーデは言う。

「FIFAがワールドカップからイラン代表を追放すれば、世界中の誰もが『イランに何が起こったのか』と問うようになるだろう」

 彼らはイランが真の民主的な国になるまで、大会参加を禁止すべきだと主張している。この件に関し、FIFAはしばらくはノーコメントのままだった。

 しかし、別なところから、彼らを強力に援護する声が上がった。ウクライナサッカー協会だ。イランはロシアに武器を提供し、ウクライナ侵攻を援助していると見られている。そんな国家にサッカーの祭典でプレー資格はないと彼らは主張し、出場権のはく奪を求める書簡を正式にFIFAに送った。ロシアには制裁を下したのに、それに加担するイランの参加を認めるのは片手落ちというのである。

 書簡を出したイランの選手たちは、これによってFIFAがこの問題に真剣に向き合ってくれることを期待している。

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