【広島】劇的な一撃でチームを勇気付けた山岸智。美しき男泣きの訳

2015年10月18日 小田智史(サッカーダイジェスト)

決して気持ちを切らさなかった姿をサッカーの神様は見ていた。

ゴールが決まった瞬間、気付くとサポーターの待つスタンドに走り出していたという。スタジアムを歓喜の渦に誘う、劇的な一撃だった。 写真:佐藤 明(サッカーダイジェスト写真部)

 広島の勝利を告げる試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、ふいに山岸の頬を涙がつたった。人間味あふれる、実に美しい男泣きだった。
 
 広島は50分に柴﨑のスーパーゴールで先制し、川崎にボールを支配されるなかでも優勢に立った。しかし、83分にJ1通算最多得点記録にジワジワと迫る大久保に強烈なミドルを食らい、ドロー決着も覚悟しなければいけない流れだった。右WBの清水が「プレー続行不可能」(森保監督)な状態となり、90+1分にピッチに立った山岸に与えられた時間はおよそ3分。ドラマはそのわずか2分後にやってきた。
 
 自陣でこぼれ球を拾った浅野が、ひとりでカウンターを発動。サイドから上げたクロスはDFの足に弾かれるも、クリアが甘くなって山岸の下に飛んでくる。「バウンドが難しかった」ボールにダイレクトで左足を振り抜くと、シュートは一直線に川崎ゴールに突き刺さり、劇的な決勝ゴールは生まれた。
 
 まさに"鳥肌モノ"のシナリオだが、浅野がボールを持った瞬間、山岸は「俺のところに(ボールが)来い!!」と願ったという。
 
「カウンターの応酬みたいになっていたので、ウチが良い形でボールを運べれば、チャンスになるかなと思っていた。持ち直すと(相手DFに)詰められそうだったので、枠に飛ばそうと抑える形でシュートを打ったらいいところに行った。最後まで分からない展開だったし、信じて走って良かったなと」
 
 山岸は今季、開幕前に左ふくらはぎを痛めると、太ももの肉離れにも見舞われ、シーズンを出遅れてしまった。復帰後も若手の台頭もあってベンチ外の日々が続いたが、決して気持ちは切らさなかった。
 
「苦しい状況だったけど、最後まで自分を信じていた。僕自身、(出番をなかなか得られない)若手に対して『腐ってはダメだぞ』とずっと言ってきたので。そういうなかで、自分がなにかを伝えていかなければいけない部分もあったと思うし、結果として、頑張っていればこうなるかもしれないと示すことができたのは嬉しかった」

次ページ2年ぶり3度目の優勝を狙ううえで、経験豊富な山岸の存在は心強い。

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