【川崎】心を熱くした逆転優勝へ望みをつなぐPK。奇跡の3連覇へチームを後押しする信じ続ける力

2022年10月30日 本田健介(サッカーダイジェスト)

首位の横浜と勝点2差で最終戦へ

PKを決めて地面を叩きながら喜んだ家長。まさに逆転優勝へ望みをつなぐゴールだった。(C)SOCCER DIGEST

[J1第33節]川崎2-1神戸/10月29日/等々力陸上競技場 
 
 残り4試合時点で首位の横浜とは勝点8差。

 31節のアウェーの札幌戦で敗戦を喫した時点で、悲願の3連覇への希望は風前の灯火に見えた。しかし「可能性がある限り戦おう。奇跡を信じよう」と鬼木達監督に発破をかけられたチームは、その後、声援の戻った等々力で意地の3連勝。横浜と勝点2差で最終節のFC東京戦を迎えるまでに巻き返した。

 それでも今季のホーム等々力でのリーグ最終戦となった神戸戦も苦しい試合展開だった。 

 2週間の準備期間を経て臨んだ一戦では、力強い試合の入り方を見せ、20分には相手の連係ミスを突いたマルシーニョが先制ゴールを挙げる。その後もチャンスを作ったが、追加点を奪えない時間が続いた。

 すると51分に神戸の小林祐希に美しいFKを叩き込まれ、同点に追いつかれる。後半に失速し、勝点を失う今季、何度となく見てきた姿。嫌な雰囲気が流れるスタジアムで、しかし、川崎の面々は誰も諦めていなかった。

「俺らは勝つしかない」

 全員の想いはひとつだった。

 82分、ゴール前で縦パスを受けた小林悠がターンを試みたシーンでDFと交錯する。一度はFKと判定されるも、直後にVARのチェックが入る。ジャッジはPKに変更。勝ち越す千載一遇のチャンスが巡ってきた。

 他会場では横浜が浦和を大きくリードし、このまま川崎がドローで試合を終えれば、横浜の優勝が決まる状況。

「後半追いつかれたが、どんな形でもいいので勝ち越し点がほしかった。そのなかでのPK。(キッカーの)アキさん(家長昭博)自身も緊張したと思う。アキさんはどんな時も頼りになる存在。PKを決めようが決めまいが、どちらにしてもやることは変わらないし、とにかく点を取りに行く姿勢は持ち続けたいと思っていた」

 キャプテンの谷口彰悟が振り返ったように、キッカーを託されたのは誰もが"アキさん"と慕う家長。外せば3連覇が遠のく運命のPKだ。緊張感は半端ではなかっただろう。

 左足を振り抜き、GKに指先で触れられながらもボールがネットに吸い込まれた瞬間、普段は冷静沈着な男が、地面を叩きながら喜びを表現する。

 あの姿にフィールドプレーヤー最年長の優勝へ懸ける強い想いを感じ、心を熱くしたのは私だけではなかっただろう。チームも終盤の神戸の反撃を身体を張って凌ぎ、2-1で希望をつなぐ勝点3を手にしてみせた。

 
 全員で掴んだ勝利だ。それでも2017年の逆転優勝を経験し、チームを引っ張ってきたふたりの男の姿はより印象深い。土壇場でPKを奪った小林と、プレッシャーに負けずに決めた家長。指揮官に試合後に話を振れば、その働きを称賛する。

「やっぱり気持ちの部分で引っ張ってくれるところがありますし、こういう競ったゲーム、緊張感のあるゲームというのは平常心で戦うことの難しさが一番あると思います。ふたりはまったくタイプは違いますが、お互いの良さを出してくれていたかなと思います。

 ユウ(小林)は先頭で攻守に渡って気持ちのこもったプレーをしていましたし、得点のところは思うところもあると思いますが、いいプレーをしてくれたと思います。

 アキ(家長昭博)に関しては今週足の具合が悪い中、それでも最後まで走り切ったところ。パフォーマンスに関しては本人も思うところがあるかもしれませんが、最後までポジションを変えながらやれたのは良かったと思います。次につなげるためにふたりとも、ふたりだけではないですが、いい働きをしてくれたと思っています」
 

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