なぜ甲府は天皇杯で優勝できたのか。広島DFの言葉にジャイアントキリングの要因が凝縮されていた

2022年10月17日 志水麗鑑(サッカーダイジェスト)

「いつも練習から言われているので」

華麗なパスワークから三平(写真中央)が先制点をゲット。見事なコンビネーションだった。(C)SOCCER DIGEST

[天皇杯決勝]甲府1(5PK4)1広島/10月16日/日産スタジアム

 ビッグサプライズである。J2のヴァンフォーレ甲府は、天皇杯でJ1クラブに5連勝を飾り、見事に優勝を果たした。北海道コンサドーレ札幌(2-1)、サガン鳥栖(3-1)、アビスパ福岡(2-1)、鹿島アントラーズ(1-0)を退け、決勝戦ではサンフレッチェ広島と対戦し、1-1で迎えたPK戦を制してタイトルを獲得した。

 甲府はなぜジャイアントキリングを起こせたのか。試合後、広島のDF荒木隼人が語った言葉に、その要因が凝縮されていた。

「僕たちのサッカーよりも相手のサッカーが良かったから、相手のほうが試合の主導権を握れた。守備でハードワークをするし、ボール奪取後はシンプルに縦につけられる時は縦パスを出してくる。ボールを保持できる時はボールを保持する。そういうメリハリがありました。僕たちも良さを出したかったけど、それよりも相手の良さが上回った」

 確かに甲府は特に前半、相手の出方を見ながらパスを回し、広島の守備陣を翻弄した。キャプテンマークを巻いた荒木翔が、胸を張って口を開く。

「いつも練習から言われているのでね。『前の人が動いたら、次の人が動く』『ボールを中心に動く』というところは、ずっと言われてきた。今日のセットプレーも、スタッフが準備してくれたものを上手く体現できた」

 先制点も、ボールを基軸に相手の動きを見ながら、巧みな動き出しの連続で敵の守備を崩した得点だった。26分、ショートコーナーで長谷川元希が相手を揺さぶり、空いたスペースに荒木が走り込む。敵を食いつかせてからクロスを送ると、ゴール前で相手のマークを外した三平和司が合わせてネットを揺らした。

 崩しのバリエーションはショートパスだけではない。準決勝の鹿島戦では浦上仁騎からのロングフィードに宮崎純真が抜け出し、相手GKとの1対1を制して決勝点を決めた。ボールを基軸に相手の動きを見て、裏を突いたという点では広島戦の得点と共通しているだろう。
 
 甲府に天皇杯のタイトルをもたらした吉田達磨監督は、第1次政権の2017年からビルドアップの強化に取り組んできた。同年はJ2降格の憂き目に遭い、18年は序盤から低迷してシーズン途中に解任されたが、地道に植え付けたエッセンスはチームに根付いていた。18年にコーチとして吉田監督を支えて19年から甲府の監督を引き継ぎ、21年にJ2の3位に導いた伊藤彰監督(現仙台)は言っていた。

「吉田監督のおかげで、選手たちは僕の要求に対する理解が早いんですよ。やっぱり、吉田監督が特にポジショニングの面で、サッカーの本質を選手に教えてくれたのは大きかった」

 今季に再任した吉田監督は、伊藤前監督が引き継いだ自らのアイデンティティを再び成熟させ、天皇杯優勝に導いた。コツコツを水を与え、日産スタジアムでようやく大輪の花が咲いた。このタイトルは、信念を貫き、努力し続けた成果である。

取材・文●志水麗鑑(サッカーダイジェスト編集部)

【PHOTO】天皇杯決勝の地・日産スタジアムに駆け付けたヴァンフォーレ甲府サポーター!
みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事