やはり一つひとつのプレーが際立つ欧州帰還組。ヨーロッパとの行き来は新しいフェーズに入るべき【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2022年10月07日 小宮良之

橋本拳人は最高のワンポイントとして仕事をし、再び欧州へ

ACLの全北現代で圧巻のタックルを見せるなど、ここ一番での酒井宏樹のクオリティはやはり際立っている。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

 日本サッカーは、かつてないほど多くの選手をヨーロッパのマーケットに輩出している。それは、これまでの進むべき道が間違っていなかったことの一つの証左だろう。

 2021-22シーズン、ヨーロッパリーグで優勝したフランクフルトの鎌田大地、チャンピオンズリーグのファイナリストであるリバプールからモナコに移籍した南野拓実、スペインの古豪レアル・ソシエダで新たな一歩を踏み出した久保建英、プレミアリーグの強豪アーセナルで主力DFとなり得る冨安健洋、ブンデスリーガで守備的MFとして有数の遠藤航、プレミアリーグ、セリエAでの実績と知性は過去の日本人欧州挑戦選手の中でもDFとして群を抜く吉田麻也、スコットランドで旋風を巻き起こすFW古橋亨梧、ポルトガルのビッグクラブ、スポルティング・リスボンで上々のスタートを切ったMF守田英正、そして初挑戦のプレミアリーグでの活躍に期待がかかる三笘薫…枚挙にいとまがなく、錚々たる面子だ。

 彼らは日本サッカーの希望と言える。

 有力選手流出による「Jリーグの地盤沈下」という問題はあるにせよ、飛び出して行って何かを手にした選手が戻って経験を伝え、さらにほかの選手が飛び出す。そのサイクルができあがることで、日本とヨーロッパのマーケットの結びつきも強くなる。日本人選手の欧州との行き来は、これからも門戸を広げるべきだ。
 
 海の向こうで揉まれた選手たちは、プレーに厚みを感じさせる。Jリーグに戻ると、それは明白になる。プレーの再適応に時間がかかることはあるが、やはり一つひとつのプレーが際立つ。

 例えば浦和レッズの酒井宏樹は、コンディションが良いときは完全に右サイドを支配している。大迫勇也、鈴木優磨、武藤嘉紀、乾貴士など復帰組は、同じくピッチに立った時の威圧感がある。また、橋本拳人は攻守のバランスを取り、最後は4勝1分けとヴィッセル神戸を残留圏に引き上げ、最高のワンポイントとして仕事をして再び欧州に渡った(所属していたロシアのクラブがウクライナ侵攻を受け、FIFAの裁定で1年間の契約停止に)。
【動画】ACL準決勝、土壇場で酒井宏樹が繰り出した超絶タックルをチェック

 今や欧州組だけで代表メンバーを組めるようにまでなったからこそ、森保ジャパンの戦いは物足りなさを感じさせるのだろう。

「アジアを勝ち抜くのも簡単ではない」

 地理的、気候的な問題を指摘し、擁護する声もあるが、もはや30年前の議論である。肉体的、精神的なコンディションに問題があるなら、Jリーグでプレーする選手を多めに選出しても、アジアなら十分に勝てる。その工夫が見えないのが問題なのだ。

 日本サッカーは今も進化を続ける。欧州市場との選手の行き来は、サッカー界を豊かにする。今後は監督や強化部の人間も海外で門戸を叩き、それを国内に持ち込む番か。新しい時代のフェーズに入るべきだ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。
 

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