指揮系統を明確にできないクラブは勝てない。「死刑執行人」と揶揄された会長が現場に介入したかつてのA・マドリーは2部降格も…

2022年10月01日 小宮良之

「下部組織は金ばかりかかる」と乱暴にも解体

次々に監督の首を挿げ替え、時にアトレティコを混乱させたヒル元会長。(C)Getty Images

 組織として、強く、勝てるチームを作るにはどうすべきか?
 
 それは、指揮系統を明確にすることだろう。
 
 クラブであれ、代表であれ、その組織にかかわる幹部たちは、実は何人もいる。育成部長、強化部長、スカウト部長、運営部長、社長、会長、そして監督。それぞれが部門のリーダーとしての立場があって、責任があるのだろう。それぞれの言い分があるかもしれない。

 しかし現場を預かるのは、あくまで監督である。
 
 あらゆる人が、そこに向けて力を注ぐべきで、そうした組織が結局はうまく運営できる。
 
 もちろん、監督を査定する立場として、GMのようなポジションの人がいるし、さらにその決定を裁断するのが社長や会長だろう。しかし現場においては、監督の権限は守られるべきだ。なぜなら、そこで監督が周りのお伺いを立てなければならない状態では、何より選手たちが従わない。そこに絶対的な統率が生まれないのだ。
 
 欧州や南米では、監督は「ミスター」という敬称で呼ばれる。彼らは圧倒的な権利を持つ一方、負けた場合のあらゆる責任を負わされる。「選手が走らないから、やる気がない」なんて言い訳は、監督失格だ。
 
 白か黒かしかないのが監督と言える。
 
 だからこそ、その統率力を支えるためにも、指揮系統は明らかにすべきだろう。

 例えば、もし社長が事あるごとに先発メンバーに口を出し、フォーメーションに文句を言い、戦い方を批判したりすることがあったら、監督業など続けられない。あるいは傀儡政権も、ダブルスタンダードによって遅かれ早かれ、統率が弱まり、チームは勝てなくなり、監督交代を繰り返し、クラブは弱体化する。

 1990年代のアトレティコ・マドリーは、その意味で典型的だった。

 悪名高いヘスス・ヒルが会長を務め、1シーズンに3人も4人も監督を替えている。ヒル会長が選手起用も口を出し、気に入らないと始末した。「ギロチン」「死刑執行人」という異名を取った。1992年には「下部組織は金ばかりかかる」と乱暴にも解体した(この時、路頭に迷いかけたラウール・ゴンサレスはレアル・マドリーへ)。気分次第の決定で、何の合理性もなかった。

 一方でヒルは人気取りには精力的で、世界中からビッグネームも獲得した。監督もクラウディオ・ラニエリ、アリゴ・サッキ、ラドミール・アンティッチなど大物ばかりだった。その点、体裁を整えていただけに、優勝することもあったが、波は激しく、やがて下位に低迷。末期は、2部に降格するなど深刻な低迷を迎えることになった。
 
 指揮系統を明確にできるか?
 
 それが勝負を制するため、まずはクリアすべき事柄と言えるだろう。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。


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