「やっとスタートラインに立てた」蘭デビュー戦で大怪我の前田直輝が勝ち取ったユトレヒトとの“再契約”。名古屋の後輩との対戦を楽しみに…【現地発】

2022年09月13日 中田徹

リザーブチームでのゴールが再契約につながる

名古屋からオランダに渡ったデビュー戦で大怪我を負った前田。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

 昨年12月、前田直輝は半年間の期限付き移籍で、名古屋グランパスからユトレヒトにやってきた。若手選手を安く買って、育てて高く売るというビジネスモデルが出来上がっているオランダのクラブにとって、27歳のEU外選手を獲得するケースはあまりない。しかし、ヨルディ・ザウダムTDは「直輝は本当に即戦力」とその実力に惚れ込んでいた。

 前田のオランダリーグデビューはウインターブレーク明け、アヤックスとのホームゲームだった。40キロほどの距離にあるアヤックスをユトレヒトは目の敵にしており、その一戦を彼らは『マッチ・オブ・ザ・イヤー』と言うが、怨念が込もったような異様な盛り上がりを見せる。そんな大事な一戦で、前田は先発に抜擢された。

 しかし、キックオフから間もなく、ライン際でリサンドロ・マルティネス(現マンチェスター・ユナイテッド)の強烈なタックルを受けて、11分に負傷退場。その後、テレビ中継で、病院に運ばれたことがアナウンスされた。当時のことを前田はこう振り返る。

「『ついにこの舞台に来たか』と。しかも相手はアヤックスというところで、いつも以上に力が入っちゃって……。日本でプレーしていたときだったら、よけるタイミングだったんですが、力が入っていたということでボールに夢中になっていた結果が、ああいう苦しい怪我になってしまいました。その瞬間はアドレナリンも出ていたし、『まだ(プレーを)やりたい』という気持ちのほうが強かった。で、足をついてみたんですが全然力が入らず、自分の足首を見たら全く真逆を向いていたので、『ああ、無理だな』と思いました」

 1月25日に手術。全治6か月ということで、リハビリ期間中にユトレヒトとの契約は一旦、切れた。しかし、名古屋は「直輝がまだチャレンジをしたんだったら、そして契約を勝ち取れるんだったら、残ってもいいよ」と前田のことを慮ってくれたという。
 
代理人は「もし直輝が夢を諦めてないのだったら、"必ず"とは約束できないけれど、俺もできる限りのことをするから一緒にもう少しオランダで頑張ってみよう」と励ましてくれた。その「夢」とはチャンピオンズリーグでプレーすることだ。

「そこに少しでも可能性があるのであれば、ヨーロッパでプレーしたいという思いが強かった」

 ザウダムTDは「(再契約を)前向きに考えている」と言っていた。前田は「その言葉を信じてアピールするだけだ」と覚悟を決めて、オランダに残り続けた。

【画像】再契約を勝ち取ったユニホーム姿の前田。背番号は…
 8月22日、前田はヨング・ユトレヒト(リザーブチーム)のメンバーに混じり、エクセルシオールとの練習試合に45分間出場し、1ゴールを決めた。SNSで「あ、前田がユトレヒトの試合に出てゴールを決めてる!」と話題になったこのゴールは、契約延長につながる貴重なものだった。

「『45分間プレーするぞ』と言われたんですが、その試合のあった週は、僕のなかで全然身体ができてなかった。でも『移籍市場が8月31日までと決まっているから、その前に試合で見たい』ということで『わかりました。やります』と。だから結果を出さないといけなかった。正直、練習参加して2週間か3週間と間もなかったので、"感覚が全然戻ってないけれど大丈夫かな"というところと、"楽しみたいな"というところがあった。でも楽しさのほうが勝って、ゴールも獲れてまずは一安心した。あとは結果を待つだけという状態でした」

 結果は吉。前田はユトレヒトとの再契約を勝ち取った。まだ今季の出場機会はないものの、9月2日のフォルトゥナ・シッタルト戦、11日のフィテッセ戦と前田はベンチ入りしている。

「やっとスタートラインに立てたなという感じです」
 

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