Jリーグに所属している身として伝えたいこと
9月14日に名古屋戦へ臨む川崎。鬼木監督は胸の内を明かした。(C)SOCCER DIGEST
「いち監督がこういう話をしていいものか、すごく葛藤もありました」
名古屋戦の2日前、堰を切ったように思いの丈を口にした鬼木達監督は、自らの意見を公に伝える判断が正しかったのか迷っているようでもあった。
それでも繰り返したのは「Jリーグに所属している身として、少しでもリーグを良くしたいと考えているなかで、言うことは言わないといけない」という熱い想いだった。
9月14日、延期されていたアウェーの名古屋戦に川崎は臨む。本来は7月16日に行なわれるはずだった一戦だ。しかし多くの新型コロナウイルスの陽性者を抱えていた名古屋は、"管轄の保健所よりトップチームの活動停止の指導"を受けたとして、エントリー下限人数13名(ただしゴールキーパー1名含む)を満たせないと判断され、試合の中止が決定されていた。
だが、実際は保健所からの活動停止の指導は受けていなかったと、名古屋の報告に誤認があったことが後に発覚。Jリーグは8月30日に「各Jクラブは公式試合の日程遵守義務を負っているところ、虚偽報告により安易に日程遵守義務を回避したとの疑念を他のJクラブ、サポーター等に抱かれかねない事態を招いたことは、Jリーグの信用を大きく毀損するものである」などの厳しい声明を出したが、名古屋への懲罰はけん責と罰金200万円の処分のみに決定。試合は予定通り、9月14日に延期して行なわれることになった。
川崎にとって決定がなされたのは、8月31日の鳥栖戦の前日。だからこそ鬼木監督は裁定への疑念を押し殺しながら、まずは試合に集中することを選んだ。
「いろんな想いがありますが、裁定委員会から結果が出た時には、選手には試合が次の日だったので、思うところは非常に多くあるけれども、自分はまずは目の前の試合に集中する、みんなも集中してくれと、そういう話をしました。その時に当然、いろんな想いも話しましたが、目の前の試合に選手を集中させることを優先した形でした」
それでもチームを預かる身として「到底、納得のいくものではない」という感情は消えない。
それもそのはずで、川崎は多数の陽性者を抱えていた7月30日の浦和戦に控え選手にはフィールドプレーヤー2人とGK3人しか加えられない状況で試合に臨み、敗れていたのだ。
当時、鬼木監督は試合後にこう想いを明かしてくれていた。
「自分たちがこうやってキーパーをサブに入れたりする状況でいくと、簡単に延期になったり飛ぶことなのかなという想いは、当然みんなありましたし、自分自身もあったので、そこら辺の想いは選手に話しました。
もしかしたら今日のゲームが意図的、意図的でないを別にして、問題提起のゲームになるかもしれない。だからそういうゲームになってもやっぱり全員で力を合わせて勝とうと。やっぱり目的は勝つことなので、いろいろありましたが、そこに集中して入れたと思います。ただ結果は残念な形になりました」
名古屋戦の2日前、堰を切ったように思いの丈を口にした鬼木達監督は、自らの意見を公に伝える判断が正しかったのか迷っているようでもあった。
それでも繰り返したのは「Jリーグに所属している身として、少しでもリーグを良くしたいと考えているなかで、言うことは言わないといけない」という熱い想いだった。
9月14日、延期されていたアウェーの名古屋戦に川崎は臨む。本来は7月16日に行なわれるはずだった一戦だ。しかし多くの新型コロナウイルスの陽性者を抱えていた名古屋は、"管轄の保健所よりトップチームの活動停止の指導"を受けたとして、エントリー下限人数13名(ただしゴールキーパー1名含む)を満たせないと判断され、試合の中止が決定されていた。
だが、実際は保健所からの活動停止の指導は受けていなかったと、名古屋の報告に誤認があったことが後に発覚。Jリーグは8月30日に「各Jクラブは公式試合の日程遵守義務を負っているところ、虚偽報告により安易に日程遵守義務を回避したとの疑念を他のJクラブ、サポーター等に抱かれかねない事態を招いたことは、Jリーグの信用を大きく毀損するものである」などの厳しい声明を出したが、名古屋への懲罰はけん責と罰金200万円の処分のみに決定。試合は予定通り、9月14日に延期して行なわれることになった。
川崎にとって決定がなされたのは、8月31日の鳥栖戦の前日。だからこそ鬼木監督は裁定への疑念を押し殺しながら、まずは試合に集中することを選んだ。
「いろんな想いがありますが、裁定委員会から結果が出た時には、選手には試合が次の日だったので、思うところは非常に多くあるけれども、自分はまずは目の前の試合に集中する、みんなも集中してくれと、そういう話をしました。その時に当然、いろんな想いも話しましたが、目の前の試合に選手を集中させることを優先した形でした」
それでもチームを預かる身として「到底、納得のいくものではない」という感情は消えない。
それもそのはずで、川崎は多数の陽性者を抱えていた7月30日の浦和戦に控え選手にはフィールドプレーヤー2人とGK3人しか加えられない状況で試合に臨み、敗れていたのだ。
当時、鬼木監督は試合後にこう想いを明かしてくれていた。
「自分たちがこうやってキーパーをサブに入れたりする状況でいくと、簡単に延期になったり飛ぶことなのかなという想いは、当然みんなありましたし、自分自身もあったので、そこら辺の想いは選手に話しました。
もしかしたら今日のゲームが意図的、意図的でないを別にして、問題提起のゲームになるかもしれない。だからそういうゲームになってもやっぱり全員で力を合わせて勝とうと。やっぱり目的は勝つことなので、いろいろありましたが、そこに集中して入れたと思います。ただ結果は残念な形になりました」
川崎がクラブとして抱え続けいるのは「Jリーグを引っ張りたい」「魅力のあるリーグにしていきたい」という想いだ。そのうえで観衆を沸かせられるようなサッカーを目指してきた。だからこそコロナ禍でも口を揃えてきたのが「リーグを止めない」という合言葉だった。
指揮官もその気持ちを人一倍抱えるからこそ、"悔しさ"という言葉が口をつく。
「Jリーグに所属している身として、選手にはずっと、リーグを引っ張っていけるようにやっていこうと話をしてきました。もちろん優勝とかそういうものもそうですが、魅力あるものをしっかり見せようと。そうやってきているなかで言うと、非常にリーグに対しても思うところもありますし、そのあたりの悔しさは……戦いたくないというわけでは決してありませんが、そういうものはあります」
試合前々日にこうした意見を発するべきか迷いもあった。
「本当は裁定委員会の結果が出た時に話をしたかったですけれども、ただ、あまりにも試合が近すぎて話せませんでした。今こうして自分が話していることも、正しいのかどうかも、チームにとってプラスになるかどうかも正直思うところもあります」
それでもやはり「当事者として、Jリーグに所属している身として、少しでも良いものを作り上げていくために声を出していかないといけない」という気持ちからの行動だった。
Jリーグ側としては今回の罰則に至った経緯を以下のように説明している(一部抜粋)。
「弁護士等も交えた名古屋グランパス、川崎フロンターレ、管轄保健所等への聞き取り調査に基づき、名古屋グランパスが報告を故意に行ったとは認められず、また、保健所側からチーム活動の停止に関する直接的な指導を受けたものではないにせよ、名古屋グランパス側が示したチームの活動停止の方針に保健所側が異議を唱えず、これを前提とした感染拡大防止に関する指導を行っている事実が認められる上、保健所の指導に基づいて活動を停止したとされる過去の他クラブの直近の事例からしても、当時の名古屋グランパスの陽性者の広がりからすれば保健所から指導があり得ると考えても不自然とはいえない」
ただ、改めて裁定に様々な意見があるのは事実であり、鬼木監督のもとにもサッカー関係者から「これで良いの?」と声が寄せられたという。
だからこそ当事者として「そういう人たちの声は、どこに届けるのかというと、届け方がないと思うんですね。これが自分が第三者というか、関わっていない身では、そういう感じなのかで終わってしまうことだと思うので、こういう風になんとなく流れて行くのは自然なのかもしれないですが、あえてJリーグを良くしていこうという想いがあるなかで言えば、やはり声をあげるべき立場であるのかなと思っています」と話す。
今回の一連の流れで改めて問われるのはJリーグ、そして各クラブの姿勢だろう。
「リーグ開催へ各クラブが努力する」
この不変的なテーマに各クラブがどれだけ真摯に取り組めるか、そしてJリーグがリーダーシップを取って指針を示していけるか。
そうした取り組みの上にこそ、多くの人が関心を持てる魅力的なリーグができるはずだ。
何も川崎は追加の処分を求めているわけではない。すでに名古屋戦へと頭を切り替えている。それでも主張すべきことを主張し、正当性を求めていくことは至極当然の行動だろう。
避けなくていけないのはルールに則って誠実に取り組んでいるチームが損をしてしまうこと。そうしたリーグに誰が関心を抱くというのか。
「結果に対しては自分たちは受け入れますし、ここから改めてクラブ(から働きかける)というのは僕のなかでは特別考えてはいません。クラブへ今回の結果に至るまでに僕の想いはかなり言わせてもらいましたし、クラブもそれを代弁してくれたと思っています。ただそういったなかで、なんでそういう形になったか説明は記事などで見ますが、結果(裁定)までのプロセス、道のりは自分たちに分からないところなので」
そう話す鬼木監督が最も頭を悩ませたのは選手への説明である。
「自分の立場はやっぱり選手を納得させて、同じ方向で同じ仕事をしていきたいというのがあるので、そこでの納得感がないなかでやらせるのは非常に難しい部分はありました。ただ、僕らは受け入れて戦うのみ、そこは変わらないです。戦いたくないではなくて戦うための頭の整理はついていますし、そこに向かっているというのは、皆さんに分かってもらえれば良いのかなと思います」
一方で名古屋を率いる長谷川健太監督も選手を慮る。
「Jリーグの判断なので、グランパスがやめますとやめられる試合ではないことは分かっていただきたいです。名古屋としてはしっかり報告をしたうえで、Jリーグが両者の言い分を聞いて判断してくれたことなので、そこは分かっていただきたいと思います。意図的に延期したわけではなく、特に、選手に責任はありません」
ただ今回の事例で最も残念なのは、Jリーグとクラブ間、そしてクラブ同士の信頼関係が損なわれるような事態になってしまったこと。
だからこそ鬼木監督の主張を通じ、改めて考えるべきなのだろう。Jリーグ、そして各クラブの姿勢、心意気を。そしてJリーグが安定して開催されることの意味、重要性を。
取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)
指揮官もその気持ちを人一倍抱えるからこそ、"悔しさ"という言葉が口をつく。
「Jリーグに所属している身として、選手にはずっと、リーグを引っ張っていけるようにやっていこうと話をしてきました。もちろん優勝とかそういうものもそうですが、魅力あるものをしっかり見せようと。そうやってきているなかで言うと、非常にリーグに対しても思うところもありますし、そのあたりの悔しさは……戦いたくないというわけでは決してありませんが、そういうものはあります」
試合前々日にこうした意見を発するべきか迷いもあった。
「本当は裁定委員会の結果が出た時に話をしたかったですけれども、ただ、あまりにも試合が近すぎて話せませんでした。今こうして自分が話していることも、正しいのかどうかも、チームにとってプラスになるかどうかも正直思うところもあります」
それでもやはり「当事者として、Jリーグに所属している身として、少しでも良いものを作り上げていくために声を出していかないといけない」という気持ちからの行動だった。
Jリーグ側としては今回の罰則に至った経緯を以下のように説明している(一部抜粋)。
「弁護士等も交えた名古屋グランパス、川崎フロンターレ、管轄保健所等への聞き取り調査に基づき、名古屋グランパスが報告を故意に行ったとは認められず、また、保健所側からチーム活動の停止に関する直接的な指導を受けたものではないにせよ、名古屋グランパス側が示したチームの活動停止の方針に保健所側が異議を唱えず、これを前提とした感染拡大防止に関する指導を行っている事実が認められる上、保健所の指導に基づいて活動を停止したとされる過去の他クラブの直近の事例からしても、当時の名古屋グランパスの陽性者の広がりからすれば保健所から指導があり得ると考えても不自然とはいえない」
ただ、改めて裁定に様々な意見があるのは事実であり、鬼木監督のもとにもサッカー関係者から「これで良いの?」と声が寄せられたという。
だからこそ当事者として「そういう人たちの声は、どこに届けるのかというと、届け方がないと思うんですね。これが自分が第三者というか、関わっていない身では、そういう感じなのかで終わってしまうことだと思うので、こういう風になんとなく流れて行くのは自然なのかもしれないですが、あえてJリーグを良くしていこうという想いがあるなかで言えば、やはり声をあげるべき立場であるのかなと思っています」と話す。
今回の一連の流れで改めて問われるのはJリーグ、そして各クラブの姿勢だろう。
「リーグ開催へ各クラブが努力する」
この不変的なテーマに各クラブがどれだけ真摯に取り組めるか、そしてJリーグがリーダーシップを取って指針を示していけるか。
そうした取り組みの上にこそ、多くの人が関心を持てる魅力的なリーグができるはずだ。
何も川崎は追加の処分を求めているわけではない。すでに名古屋戦へと頭を切り替えている。それでも主張すべきことを主張し、正当性を求めていくことは至極当然の行動だろう。
避けなくていけないのはルールに則って誠実に取り組んでいるチームが損をしてしまうこと。そうしたリーグに誰が関心を抱くというのか。
「結果に対しては自分たちは受け入れますし、ここから改めてクラブ(から働きかける)というのは僕のなかでは特別考えてはいません。クラブへ今回の結果に至るまでに僕の想いはかなり言わせてもらいましたし、クラブもそれを代弁してくれたと思っています。ただそういったなかで、なんでそういう形になったか説明は記事などで見ますが、結果(裁定)までのプロセス、道のりは自分たちに分からないところなので」
そう話す鬼木監督が最も頭を悩ませたのは選手への説明である。
「自分の立場はやっぱり選手を納得させて、同じ方向で同じ仕事をしていきたいというのがあるので、そこでの納得感がないなかでやらせるのは非常に難しい部分はありました。ただ、僕らは受け入れて戦うのみ、そこは変わらないです。戦いたくないではなくて戦うための頭の整理はついていますし、そこに向かっているというのは、皆さんに分かってもらえれば良いのかなと思います」
一方で名古屋を率いる長谷川健太監督も選手を慮る。
「Jリーグの判断なので、グランパスがやめますとやめられる試合ではないことは分かっていただきたいです。名古屋としてはしっかり報告をしたうえで、Jリーグが両者の言い分を聞いて判断してくれたことなので、そこは分かっていただきたいと思います。意図的に延期したわけではなく、特に、選手に責任はありません」
ただ今回の事例で最も残念なのは、Jリーグとクラブ間、そしてクラブ同士の信頼関係が損なわれるような事態になってしまったこと。
だからこそ鬼木監督の主張を通じ、改めて考えるべきなのだろう。Jリーグ、そして各クラブの姿勢、心意気を。そしてJリーグが安定して開催されることの意味、重要性を。
取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)