連載|熊崎敬【蹴球日本を考える】闘莉王“FW起用”では埋めきれなかった蓄積の差

2015年10月04日 熊崎敬

シーズンもいよいよ終盤戦に入り、各チームの集大成が問われる。

ここ2試合でFW起用が続く闘莉王。前節の神戸戦では1得点したが、柏戦では後手に回る展開で沈黙した。写真:田中研治

 3-1で柏が名古屋を下した一戦は、今シーズンの蓄積の差がでたようなゲームだった。
 
 2試合続けてFWとして出場した闘莉王は、さばさばした表情でこう語った。
「チャンスは少ないと思ったけど、(自分には)2度もあった。それを俺が決めていれば。でも自分はFWじゃないですよ。FWでプレーするのは、まだ居心地が悪い。たった2試合じゃ感覚が分からないですから。もっとコンビネーションを重ねていかないと」
 
 攻撃陣に故障者が続出したことで名古屋は闘莉王をFW起用しているが、急ごしらえのチームは柏にいいように振り回された。
 
 柏はボールの前に選択肢が多い、攻撃的な試合運びに特徴がある。ふたりのCBにアンカーが加わった3人が最後尾でパスを回しながら、全体を押し上げていく。
 
 対戦相手からすれば、ボールに触れる機会の多いCBに圧力をかければ柏のリズムを崩すことができる。だが、名古屋の試合運びにはどこをどう抑えるかが見えてこなかった。
 
 前線からの守りが機能せず、アンカーの秋野やCBエドゥアルドに好きなようにパスを出され、中盤や最終ラインの選手たちは次々と背後に湧き出すフリーの敵に右往左往する羽目になった。
 
 象徴的だったのは41分に喫した2点目。ドリブルで持ち上がってきたエドゥアルドに誰もつかず、最終ラインの背後に決定的なスルーパスを許してしまった。
 
 名古屋の西野監督は選手交代によって戦況を変えようとしたが、困惑する選手を最後まで助けることができなかった。
 小川が「混乱したままだった」、矢田が「相手の技術が高いのは分かっているけど、やられすぎ」と振り返っていた。
 
 長いシーズンもいよいよ終盤戦。それぞれのチームがどんな1年を過ごしてきたのか、集大成が問われることになる。
 
 柏は就任1年目の吉田監督の下、若い選手たちがリスクを恐れない冒険的なスタイルを地道に培ってきた。一方の名古屋は、正直なところなにをやりたいのか見えてこない。台所事情の厳しさは分かるが、FW闘莉王というカンフル剤頼みのサッカーになっている。
 
 チーム作りは積み上げては崩れ、崩れては積み直しの繰り返し。努力がいつも実を結ぶとは限らないが、日々の蓄積はやがて大きな差となって表われる。
 
取材・文:熊崎 敬
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