【総体】「1ミリも見たくなかった」が、勝者の姿を目に焼き付けた帝京の主将FW。冬の日本一に向け、美しい物語を描くために

2022年07月31日 森田将義

「優勝と準優勝の差。絶対に忘れるなよ」

悔しさをその身に刻むかのように、優勝を喜ぶ前橋育英の選手たちから目をそらさなかった伊藤。「負けたのだから相手のことは称えなきゃ」という想いも。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

[インターハイ決勝]帝京0-1前橋育英/7月30日(土)/鳴門・大塚スポーツパークポカリスエットスタジアム

 「優勝と準優勝の差はこれだから。絶対に忘れるなよ」。優勝の喜びに沸きながら集合写真を撮る前橋育英(群馬)の選手を尻目に、ピッチの反対サイドで静かに記念写真を撮る帝京(東京)の選手に対して日比威監督は言葉をかけた。

 言葉は監督自身に言い聞かせていたようにも思う。「東京で負けるのもそうだし、ここで負けるのもみんな一緒。負けるのは全て一緒」。試合後の取材では、こんな言葉を口にしていたが、名門復活を示す日本一にあと一歩の所まで迫りながらの敗戦。「今回、準優勝して、新たな山を見つけたので、そこを登るだけですね」と続けた指導者からは、今大会での悔しさを次に繋げようとする強い意志を感じた。

 監督の言葉を受け、選手たちは喜ぶ前橋育英の選手たちをしっかり目に焼き付けていた。「正直もう1ミリも見たくなかったですけど、見ることが一番悔しいことだと思う。負けたのだからしっかり相手のことは称えなきゃと思って、ずっと見ていた。ロッカールームに戻ったら、みんなに『ここまで戦ってくれてありがとう。だけど、まだ冬があるので全員で落とさず、もう1回この悔しさを忘れず、次は勝とう』と言いたい」。そう口にするのは主将のFW伊藤聡太(3年)だ。
 
 打たれたシュートは10本に対し、帝京高のシュートは前半の2本。だが、前半の終了間際にカウンターから伊藤がドリブルで相手ゴール前まで持ち込み、DF大田知輝(3年)がGKとの1対1に持ち込むなど惜しい場面は確実にあった。第三者から見れば、差は小さかったように見えたが、監督、選手ともに大きな差があったと声を揃える。

「決めるとこを決めないといけない。試合を重ねることによって、前橋育英さんはフィジカル的にも、ワンタッチを差し込む技術も上だった。ゲーム的には決定的な場面が同じぐらいとは言えませんが、お互いにあった。決定機を作る機会は多かったけど、決定機の作り方が私たちよりも上だった。ワンタッチで差し込む所、判断のスピードが明らかに違った」(日比監督)。

 本気で日本一を狙っていただけに悔しさは強い。一方で、発展途上である夏に本気の試合、全国でもトップクラスのチームとの試合を6試合も経験し、課題が明確に出たのは収穫だ。得た課題を冬の選手権で活かせるか。これからが帝京にとって、本当のスタートだ。

「帝京高校は主役なので、夏獲れずに冬獲ったらみんな感動できるんじゃないかと思います。一種のエンタテインメントとして良かったんじゃないかと思います。プリンスリーグもありますし、ここからどんどん全員で成長していければと思います」。試合後に伊藤はこんな言葉を発したが、悔しい夏から冬に頂点まで駆け上がるのはストーリーとして美しいし、見てみたい。

「これから楽しみにしてください」。取材終わりにそう言って会場を去った伊藤、そして帝京の選手たちなら冬に最高のハッピーエンドを見せてくれるに違いない。

取材・文●森田将義(サッカーライター)
 
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