ペップはなぜ、ゲッツェを冷遇しているのか?【バイエルン番記者】

2015年09月14日 パトリック・シュトラッサー

ドイツ代表では「ゴールを保証する希望の星」

主力として活躍する代表とは裏腹に、バイエルンでは控えに甘んじたままのゲッツェ。グアルディオラが冷遇するその理由とは――。 (C) Getty Images

 マリオ・ゲッツェには、相反するふたつの顔がある。
 
 バイエルンでのそれは「ベンチ要員」、ドイツ代表でのそれは「ゴールを保証する希望の星」――。
 
 EURO2016予選のポーランド戦(9月4日/3-1)とスコットランド戦(9月7日/3-2)で、ゲッツェはいわゆる「ゼロトップ」として勝利に貢献した。
 
 なかでも2得点を決めたポーランド戦のパフォーマンスは、過去最高と言ってもいいほどだった。ゲッツェが披露したのは、例外的な天賦の才に強い意気込みとゴールの危険性を加えた、新たな姿だ。
 
「マリオには攻撃のさまざまなポジションを任せられる」
 ヨアヒム・レーブ監督は語る。
 
「狭いスペースでうまくオリエンテーションする(方向を決める)ことができる。強豪チームを相手にしたときでも、重要なゴールを決めてくれる」と絶賛した。
 
 レーブとゲッツェは過去数か月間、じっくり話し合ってきた。
「バイエルンで戦い続け、状況を打破すべきだ」
 これがレーブの助言だったという。
 
 そう、3年目を迎えたバイエルンで、ゲッツェは控えに甘んじたままである。基本的に出番が回ってくるのは、ジョゼップ・グアルディオラ監督がロベルト・レバンドフスキに休みを与えた時だ。
 
 アリエン・ロッベンの故障離脱によって、これから出場機会は増えるだろうが、それにしてもなぜ、グアルディオラはゲッツェを信頼しないのだろうか?
 
 大きな理由のひとつが、ゲッツェは自分が求めた選手ではなかったからである。2013年夏、バイエルンの監督就任に際してグアルディオラが望んだのは、ゲッツェではなくネイマールの獲得だった。しかし、サントスで売り出し中のブラジルの新星はバルセロナに奪われてしまった。
 
 ゲッツェは、言ってしまえばフロント主導の新戦力だった。バイエルンの首脳陣がこだわったのは、ドイツ屈指のタレントを、宿敵ドルトムントから引き抜くという、いわば自尊心を満足させるための補強だったのだ。
 
 そんなゲッツェのために、グアルディオラはポジションを見つけようとはしなかった。ロッベン、フランク・リベリ、トーマス・ミュラーのように自由を与えようともしなかった。
 
 指揮官の冷遇は、ゲッツェのメンタルに影響した。
 
 それでなくても、ゲッツェはドイツで言うところの「精神の愛撫」(賛辞や褒め言葉)を必要とする類の人間である。成功のためには監督の信頼とサポートが欠かせないタイプの選手なのだ。
 
 その点を理解しているのがレーブだ。巨大なポテンシャルを最大限に引き出すためにはどうしたらいいか、その方法を知っている。
 
 だから、ポーランド戦の前にレーブはゲッツェに告げたのだ。レギュラーの座は保証されている、と。そしてゲッツェは、最高のパフォーマンスで指揮官の信頼に応えてみせたのである。
 
「代表は居心地がいい。信頼されるのは素晴らしいこと。代表ではつねにそれを感じることができる」
 ゲッツェはそう笑顔で語った。
 
 しかし、代表ウィーク明けのブンデスリーガ4節・アウクスブルク戦、ゲッツェの姿はベンチにさえなかった。筋肉系の問題、それが公の理由だった……。
 
【記者】
Patrick STRASSER|Abendzeitung
パトリック・シュトラッサー/アーベントツァイトゥング
1975年ミュンヘン生まれ。10歳の時からバイエルンのホームゲームに通っていた筋金入りで、1998年にアーベントツァイトゥングの記者になり、2003年からバイエルンの番記者を務める。2010年に上梓した『ヘーネス、ここにあり!』、2012年の『まるで違う人間のように』(シャルケの元マネジャー、ルディ・アッサウアーの自伝)がともにベストセラーに。
【翻訳】
円賀貴子
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