【U-18プレミアリーグ】降格危機に瀕するJFAアカデミー福島。CB下口椎葉は「声」でチームを救えるか

2015年09月06日 安藤隆人

コンディションに不安を抱えるも強い責任感で「自分が盛り上げていくしかない」。

JFAアカデミー福島の最終ラインを統率する下口。チームを「声」で鼓舞し続け、残留争いのライバル流経大柏との一戦で勝利に貢献した。写真:安藤隆人

「勝った瞬間、泣きそうになりました」
 
 プレミアリーグEAST・13節。アウェーで流経大柏を3-1で破ったJFAアカデミー福島のCB下口稚葉は、試合後こう正直な胸の内を発した。
 
 彼らは崖っぷちの状況でこの一戦を迎えていた。12節終了時点で、JFAアカデミーは最下位に沈んでいた。流経大柏もJFAアカデミーと勝点差2の8位と、残留争いの渦中にあった。
 
 負ければ、降格の可能性が膨らむ一戦。「このゲームを落としたら降格すると思って挑んだ」と下口は、並々ならぬ決意とモチベーションを持ってこの一戦に臨んでいた。しかし、その気持ちとは裏腹に、自分自身のコンディションには大きな不安を抱えていた。
 
 昨年はU-16日本代表に選ばれ、U-16アジア選手権に出場するなど、経験を積んで成長を遂げたが、今年に入り怪我に苦しむ日々が続いている。
 
「コンディション面でうまくいかないことが多くて、今も足には不安を抱えています。万全ではないなかでも使ってくれる監督や周りに応えたいし、チームにプラスになることをやろうと常に考えています」
 
 この試合、下口のプレーは決して本調子ではなかった。縦パスが相手守備の網に引っかかるなど、らしくないミスもあったが、それでもいつも以上に彼は常に周りに声を出し続け、守備組織を的確に動かすだけでなく、言葉で仲間を鼓舞し続けた。そして、この『声』こそ、下口が考えた『チームにプラスになること』だった。
 
「正直、個人的にはコンディションも上がっていないし、不安な部分が多いなかで、周りを鼓舞する言葉や指示を出すのは、おこがましいかもしれないけど、このチーム状況だったら自分が盛り上げていくしかないと思っています。声を出して、人を動かしてチームを活気づけることは自分の長所でもあるので、そこはピッチに立つ責任感としてやっています」
 
 ディフェンスリーダーの強烈な意思は、チームにプラスに働いた。開始早々の9分に、右CKからDF牧野潤が先制弾を挙げると、49分に混戦から決められ同点にされるが、直後の56分にFW谷口憧斗のパスを受けたMF宮本英治がカットインから勝ち越し弾。さらに65分にはカウンターから、谷口が鮮やかな反転シュートを突き刺した。
 
 失点のシーン以外は、下口を中心に守備陣が集中を切らさずに対応。時間が経過するごとに下口の声が際立って聞こえるようになり、この試合に対する執念を感じさせた。
 
 強い決意と執念の末に掴んだ勝利。冒頭の言葉はその表われだった。
「これでまだ降格圏内から脱することができたわけではありません。まだまだ尻に火がついている状況に変わりはないので、この試合だけでなく、これからの試合も変わらぬ気持ちと決意で臨んで、残留争いから抜け出して、柏U-18などを捕まえにいきたい」
 
 この一戦ですべてが解決したわけではない。この熱量と質を継続して発揮してこそ、彼の真価となり成長となる。下口はまだまだ試練の最中にいるが、それは同時にさらなる飛躍へのチャンスでもあるはずだ。
 
取材・文:安藤隆人(サッカージャーナリスト)
 
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