ジダンが売却を望んだヴィニシウスの覚醒。なぜ前指揮官は冷遇したのか【現地発】

2022年06月13日 エル・パイス紙

ヴィニシウスは戸惑い、落胆した

ジダン前監督(左)はヴィニシウス(右)をなぜ冷遇したのか。(C)Getty Images

 ヴィニシウス・ジュニオールが伝説として語り継がれるゴールを決め、レアル・マドリーのチャンピオンズ・リーグ(CL)史における最もノーブルなゾーンに足を踏み入れたその夜、スタッド・ド・フランスのスタンドには在任中、最も権力を持ちながら、最もその能力を疑っていた人物の姿があった。ジネディーヌ・ジダンだ。

 マドリーの前指揮官は、妻ヴェロニカと息子のリュカとテオと一緒にリバプールとマドリーとの顔合わせとなったCL決勝戦を現地観戦していた。

 ジダンとヴィニシウスは、ありていに言えば波長が合わなかった。ジダンは、ヴィニシウスが自身の期待に沿うプレーを見せることができないアタッカーと見なし、エデン・アザールを好んで起用した。アザールが度重なるコンディション不良に苦しんでも、そのえこひいきは変わらなかった。

 ジダンが特に問題視したのがヴィニシウスの戦術理解力の不足だ。自身の感覚からするとできて当然というプレーができない。自ずと信頼は低下し、その状況にヴィニシウスは戸惑い、落胆した。

 ジダンの低評価は、ある時を境にヴィニシウスの売却をリクエストするまでになった。しかしクラブ内にはきっかけさえ掴めば、大きく化ける可能性があるという意見が大半を占め、指揮官の要望に応じることはなかった。ヴィニシウスももちろんマドリーに留まることを望んだ。
 
 監督とのフィーリングは悪化する一方で、環境を変えるという選択肢が脳裏をよぎったことがなかったわけではない。しかしパリ・サンジェルマンをはじめとしたクラブから猛アプローチを受けても、具体的なアクションを起こすことはなかった。

 当時から今よりももっと頻度は少なかったが、ゴールを決めるたびにユニホームのエスクードにキスをしていたのはマドリー愛の表われに他ならなかった。しかもヴィニシウスは鉄の意思の持ち主だ。周囲にはジダンの無関心とソーシャルメディアの無遠慮というネガティブな空気が入り混じり、なかなか状況が好転しない中でも、試合になると自ら進んで崩しの急先鋒を買って出続けた。

 だから決勝戦当日、スタジアム周辺の混乱を受け、キックオフ時間が遅れても動揺することはなかった。マドリーに14度目のCL制覇をもたらしたゴールは、そんなヴィニシウスの精神面の充実とプレー面の成長を如実に示していた。

 その得点のシーン、フェデリコ・バルベルデが右サイドを抜け出しボールを蹴る瞬間、すでにゴールへの道筋が想定できていたという。

「フェデがシュート態勢に入ったのを見て、あのあたりにボールが来るのを予測し、その瞬間を待っていた。イメージ通りさ。ボールがあそこに来る可能性があることは分かっていたからね。普段の練習からあのあたりのポジションを取ることを常に意識してやっている」

 今、ヴィニシウスとマドリーと契約延長に向けて話し合いを進めている。祝勝会の翌日、本人がブラジル代表に合流するために韓国へと向かう中、代理人のフレッジ・ペナは細部の詰めを行なっていた。

 関係者によると、ヴィニシウスは年俸以外のことに関しては無頓着だという。つまるところはマドリーでプレーし続けることを望み、そうなることを確信している。ジダンの売却案が完全に過去の物になった今、歴史に新たに名を刻んだ英雄の契約延長を阻む障壁は何もない。

文●ダビド・アルバレス(エル・パイス紙レアル・マドリー番)
翻訳●下村正幸

※『サッカーダイジェストWEB』では日本独占契約に基づいて『エル・パイス』紙のコラム・記事・インタビューを翻訳配信しています。

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