いるだけでバルサを別のチームに変貌させるペドリ。日本では型にはめがちな戦術も結局は「選手ありき」

2022年06月05日 小宮良之

「日本ではこの布陣をしたら勝手にそのサッカーになると…」

このペドリの離脱とともにバルサは失速した。(C)Getty Images

 サッカーにおける「戦術」は進化したのかもしれない。戦い方の仕組みを拵えるために、研究しつくされてきた。事実、守備戦術に関しては「極まった」と言われる。

 指導者たちは、新たな用語に引っ張られるようになった。勉強熱心な日本人はその流れが顕著と言えるだろう。ニアゾーン、ハーフスペース、ポジショナルプレーなど、呪文のように使うようになっている。まるで最近、発見したかのような賑やかさだ。
 
 しかし、そうやって用語化し、型にはめ込むことで満足していないか。実のところ、戦術は体現することができなければ、ほとんど何の意味もない。

「サッカーは同じプレーが繰り返されることなどないんだよ。だから、柔軟に動けるような知恵を身につけていないといけない。日本では、この布陣をしたら勝手にそのサッカーになる、と信じられているようなところがある。でも、そんな簡単なものではない。戦いはトレーニングの中で鍛えるんだ」
 
 現在はマンチェスター・シティの参謀役であるヘッドコーチを務めるファン・マヌエル・リージョはそう語っていたが、定型化することはサッカーを小さく、硬化させることだとも説いていた。

「選手ありき」

 結局はトレーニングの中で選手の力量を高め、それを全体に伝播させるしかない。

 もっと言えば、一人の有力な選手によって、正しいプレーの流れは呆気なく生まれる。それは軽やかにチーム全体を好転させる。たった一人が風向きを決めるのが、この集団スポーツが抱える矛盾と言えるだろう。
 
 例えば、今シーズンのFCバルセロナは、伝統を知り尽くしたシャビが新たに監督になって、モチベーションを高め、戦い方を整えることはできた。しかし、低迷からはなかなか抜け出すことができなかった。戦術的には整備されたが、運用率のようなものが低く、しばらく苦しんでいた。

 しかし、ケガで戦線を離れていたスペイン代表MFペドリが復帰するや否や、チームは別の顔を見せるようになった。ボールのつなぎがスムーズになっただけでなく、プレースピードを思うままに変化させ、相手を幻惑し、攻守一体で相手を凌駕。チームはクラシコで宿敵レアル・マドリーを蹴散らすなど、急浮上することに成功したのだ。
 
 ところが、ペドリが負傷で戦列を離れた途端、プレーレベルは途端に低下した。ヨーロッパリーグ準々決勝、本拠地カンプ・ノウでフランクフルトに敗れて大会を去る。国内リーグでも、同じくカンプ・ノウでカディス、ラージョ・バジェカーノに連敗。これによって逆転優勝の望みはほとんど消えたが、何よりプレー内容は暗澹たるものだった。
 
 ペドリ一人で、これだけチームは変化する。それが、サッカーというスポーツの真実だ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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