【連載】現地ベテラン記者が香川を密着レポート「見せつけた“特別なクオリティー”」

2015年08月27日 マルクス・バーク

新チームの効率的なプレースタイルが香川に有利に働いている。

上り調子の香川。ブンデスリーガ2節のインゴルシュタット戦では、自画自賛のDF股抜きシュートで、今シーズンのリーグ初ゴールをマークした。本人が語るように、この好調を持続していくことが大事だ。 (C) Getty Images

 ボルシアMGとのブンデスリーガ開幕戦は4-0、その5日後のヨーロッパリーグ(EL)予選プレーオフ第1レグのオッド・グレンラン戦は4-3、そしてブンデスリーガ2節のインゴルシュタット戦は4-0で勝利――。

 ヴォルフスベルガーとのEL予選3回戦(第1レグは5-0、第2レグは2-0)を含めれば、ドルトムントは目下、公式戦5連勝中だ。
 
 今シーズンから指揮を執るトーマス・トゥヘルは、これほど良いスタートを切れるとは予想していなかっただろう。今のドルトムントは、とにかく波に乗っている。その理由を探すのなら、走行距離のデータを見てみると面白い。
 
 前任者のユルゲン・クロップは、トランジション型のサッカーを志向。選手たちに圧倒的な運動量が求め、1試合平均におけるチーム全体の走行距離が120キロを超える試合が少なくなかった。
 
 一方、トゥヘル現政権下では、チーム全体の走行距離がかなり少なくなっている。
 
 例えば、昨シーズンのボルシアMG戦(ブンデスリーガ11節)では186キロだったが、先の開幕戦では111キロで、インゴルシュタット戦はそれよりもさらに少ない109キロだった。それでも試合を支配していたのはドルトムントで、常に相手よりもアクティブにプレーしていた。
 
 走行距離が減少したのは、クロップ時代と比べてチーム全体がコンパクトになったからだ。選手間の距離が縮まり、最小限の運動量でゲームをコントロールできるようになった。
 
 この効率的なプレースタイルは、香川に有利に働いている。チーム全体がコンパクトになったため、敵DFにプレスにかける際の距離が短くなり、守備の負担が減った。そこで温存したパワーを攻撃に還元する。こうした好循環が、現在の好調を支える要因となっている。
 
 開幕前の香川は明らかに不調で、先発すら危うい状況だった。しかし、この3試合でアピールに成功し、今はスタメンがほぼ確実だ。ただ、8月27日のEL(オッズ戦)は次ラウンド進出がほぼ濃厚なため、温存される可能性が高い。
 
 香川だけでなく多くの主力が好調を維持できているのには、選手の心理状態も関係しているだろう。対話を重視するトゥヘル監督の方針が、良い影響を及ぼしているのだ。良いプレーをしたら逐一選手を褒め、逆に悪いプレーをした場合は即座に改善点を指摘する。
 
 フィーリングは、選手の好不調を左右する重要なファクターだ。繊細な選手であればことさら重要で、その典型と言えるヘンリク・ムヒタリアンが輝きを取り戻したのは、トゥヘルのサポートがあればこそだろう。
 
 香川もまた、繊細なメンタルの持ち主だ。彼は、毎試合ゴールかアシストを記録しなければならないというプレッシャーを自分自身にかけてしまう。
 
 しかし、オッズ戦とインゴルシュタット戦でゴールを決めたことで、今の彼は勢いに乗っている。トゥヘルがプレシーズンの始めに口にしていた、「特別なクオリティー」を見せつけているのだ。
 
文:マルクス・バーク
翻訳:円賀貴子
 
Marcus BARK
マルクス・バーク/地元のドルトムントに太いパイプを持つフリージャーナリストで、ドイツ第一公共放送・ウェブ版のドイツ代表番としても活躍中。国外のリーグも幅広くカバーし、複数のメジャー媒体に寄稿する。1962年7月8日生まれ。
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