敵を幻惑させる偽9番、偽SB、偽ウイングはモダンフットボールの象徴。選手のユーティリティ性がかつてないほど高まっている

2022年05月24日 小宮良之

ザックジャパンでは岡崎がその役割を果たす

偽SBと偽9番として象徴的な(左から)カンセロとフォデン。(C)Getty Images

 最近のサッカー界は、どのチームもプレーの効率性、合理性、能率性を究極的に求め続け、戦術的には"追いかけっこ"のような様相を呈している。

「相手の裏をかく」

 それがサッカーというスポーツの根幹である。そこで敵の対策を凌駕するため、自らのプレーに変化を与え、選手の役割やポジションも多様化、複雑化させつつあるのだ。
 
 偽9番、偽サイドバック、そして偽ウイングなどは、モダンフットボールの象徴と言えるだろう。もともとの特性が違うポジションの選手が入ることによって、プレーリズムを変え、感覚のずれを引き起こし、敵を幻惑させる。
 
 偽9番としては、マンチェスター・シティのフィル・フォデン、リバプールのディオゴ・ジョッタ、パリ・サンジェルマンのリオネル・メッシの3人が代表格だろうか。それぞれ性格も特性も異なり、各チームの中で求められている動きも違うが、いわゆる9番の選手とは違う。ボールプレーヤーとして傑出している点は共通し、攻撃を多彩にすることで優位に立つ。

 偽サイドバックとしては、マンチェスター・シティのジョアン・カンセロが典型だろう。これまでもサイドアタッカーの選手のコンバートは多いポジションだった。しかし創造力を発揮できる技術を持って、プレーメイカー的な資質を持った選手をサイドバックで起用することによって、チームとしてボールを握ってアドバンテージを持てるのだ。
 
 偽ウイングは、マンチェスター・シティのラヒーム・スターリング、ユベントスのアルバロ・モラタ、あるいは日本代表の南野拓実もそれに近いか。ブラインドサイドからゴール前に入って、ゴールを狙う。

 ベティスのスペイン代表FWファンミなどは著しい成功例と言えるだろう。ファンミはたぐいまれなる得点感覚の持ち主であるにもかかわらず、サイズの問題でトップでは今一つだったが、サイドにポジションを取ることでスペースへの入り方や呼び込み方で違いを見せ、今シーズンは得点を量産した。
 
 もっとも、どれも今になって発明されたポジションではない。

 例えば、オランダのヨハン・クライフは1970年代には、偽9番さながらに前線と中盤を自由に行き交い、試合を支配していた。偽サイドバックのポジションもブラジルでは昔から一般的で、Jリーグでプレーしたレオナルドもジョルジーニョも、中盤でプレーしても一流だった。また、偽ウイングも"もう一人のストライカー"として機能させる例は珍しくもなく、ザックジャパンでも岡崎慎司がその役割を見事に果たしていた。

 良くも悪くも、各選手のユーティリティ性がかつてないほど高まっている。トータルフットボールの進化のプロセスとも言えるだろうか。どの"偽物"も、突然変異ではない。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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