“不死鳥”長谷部誠が掴んだ13年ぶりのCL切符。妥協を許さない男が「来た時は毎年残留争いをしていた」フランクフルトを変えた【現地発】

2022年05月24日 中野吉之伴

「アイントラハトはバイエルンに次ぐグループに入っていける」

鎌田大地(左)とともにEL制覇に貢献した長谷部(右)。(C)Getty Images

 ヨーロッパリーグ(EL)優勝を決めたピッチでキャプテンマークを巻いていたのは長谷部誠だった。今季はレギュラーとして絶対的な存在だったわけではない。出場機会もここ数シーズンでは一番少ない。それでも、起用されたときには必ず高いパフォーマンスでチームに貢献し続けてきた。

 長谷部誠の不死鳥ぶりは、褒める言葉が見つからないほどだ。3バックのセンターでレギュラーとして欠かせない存在だったマルティン・ヒンターエッガーが怪我で離脱。レンジャーズとのEL決勝では代わりに起用されたトゥータが試合中に、しかも失点のシーンで負傷退場した。そのチームの核となるポジションを、難なく埋めたのが長谷部だった。

 ここまでの道のりは長かった。

「僕がフランクフルトへ来ることになった時は、毎年のように残留争いをしていましたから。いまのチームは、これまで僕がプレーしてきた中でもベストチームだと思います」

 2020年に『スポーツビルト』紙の取材にそう答えていた。移籍してきた翌年の15-16シーズンにはブンデスリーガ16位で2部3位との入れ替え戦を戦っていた。相手は古巣のニュルンベルク。辛くも残留を果たしたものの、とても明るい未来が待っているというような状況ではなかった。

 そんなフランクフルトがここまで来たのだ。毎年のようにどんどん壁を乗り越えていく。17-18シーズンにはドイツカップ優勝。決勝ではバイエルンを打ち破っての戴冠だ。翌18-19シーズンはELで快進撃を見せる。準決勝で強豪チェルシー相手にPK戦で涙をのんだが、その情熱的な戦いにはドイツ国内外から多くの称賛を浴びた。

 その中心にはいつも長谷部がいた。ピッチ内外で先頭を切って走り、チームを引っ張り続けてきた。どんな試合後でも満足しきるなんてことはない。いつも向上心と野心が心の中にはある。自分に厳しく、味方にも高い要求をするし、厳しい言葉もぶつける。

【動画】フランクフルト主将が優勝カップを掲げる歓喜の瞬間! 長谷部と鎌田も喜び爆発
 例えば19-20シーズンのELグループ最終節ですでにグループ最下位が確定しているギマラエスにホームで2-3と敗れたことがあった。フランクフルトは決勝トーナメント進出を決めてはいたが、試合後のミックスゾーンでも表情は険しいままだった。

「ほっとしたというよりは、悔しさとかそういうのよりも、怒りがありますね。この戦い方では決勝トーナメントにいってもなかなか、勝つのは難しいかなと思います。はっきり言ったら練習はできないので、メンタリティのところを突き詰めていくしかないですね。やっぱり、選手個々のメンタルの見せ所だと思うし、こういう苦しい中でも踏ん張れるか踏ん張れないかというのは、その選手の良さでもあると思うので。チームとして踏ん張り切れてないというのは、そこが見せられてないのかなと思います」

 ただ、それは期待の裏返し。地元紙のインタビューで次のように答えていたことがある。

「アイントラハト(フランクフルト)はバイエルンに次ぐドルトムント、ボルシアMG、ライプツィヒといったグループに入って行けると思っています。でもそこへたどり着くためには毎年インターナショナルな場(欧州カップ戦)へ出場し続けなければならない」

 チームとしてのポテンシャルは間違いなくあると信頼している。だからそれを発揮できないことがもどかしい。まだ若いから、経験が少ないからというのを周りが言うならまだしも、選手が言い訳に使ってはならないと戒める。
 

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