現地紙コラムニストが綴る【武藤嘉紀のブンデス挑戦記】「練習場に押し寄せる日本のメディアの狂騒を指揮官も憂慮」

2015年08月19日 ラインハルト・レーベルク

開幕戦は武藤にとっても大きな失望に。

サポートにも恵まれず、決定的な働きができなかった開幕戦は、武藤にとって残念なデビュー戦に。翌日の練習試合でも周囲といまひとつ噛み合わず。 (C) Getty Images

 新天地マインツでの1年目、はたして武藤嘉紀はどんなパフォーマンスを見せるのか。現地紙でコラムニストを務めるラインハルト・レーベルク記者の筆で、武藤の「挑戦記」をお届けする。
 
――◆――◆――
 
 サッカー少年だった頃、誰もがこんな夢想をしたはずだ。
 
 満員のスタジアム、相手にリードを許して残り10分。監督に名前を呼ばれる。ピッチに入る。
 
 パスが来る、トラップ、ドリブル。DFを1人かわし、2人、3人、4人目も抜き去り、GKを横目にシュートをネットに突き刺す。
 
 歓喜の疾走、自分の名前を絶叫する観客。そしてスターダムへと駆け上がる――。
 
 武藤嘉紀は、そんな夢のシチュエーションを実際に体験した。
 
 ブンデスリーガの初ピッチに立ったのは、マインツが0-1とリードを許して迎えた78分だった。残り時間は12分。運のなかったフロリアン・ニーダーレヒナーに代わり、チームを救う「切り札」として投入されたのだ。
 
 しかし、プロ選手の人生はいつも夢のようにはいかない。
 
 武藤は頑張った。マルティン・シュミット監督には、ドリブルを仕掛け、1対1で勝負するよう言われていた。
 
 武藤には二度ほど良いシーンがあったが、全員が引いてゴール前を固めるインゴルシュタットは隙を見せない。最後の数分間、マインツはエリア内に入り込むことさえできなかった。
 
 終了のホイッスルが鳴る。昇格組にホームで0-1の敗北。ショックな開幕となった。
 
 試合後、スタンドからはブーイングが飛んだ。不満をこんなふうに表現する伝統は、マインツにはない。サポーターは動揺したのだ。あまりに弱々しいチームのパフォーマンスに、だ。
 
 武藤にとっては、新しい国、新しいクラブ、新しいリーグでのデビュー戦が、大きな失望となってしまった。
 
 その夜は短い夜となった。翌日曜の11時、マインツのブルフベク・シュタディオン(コファス・アレーナに移転する前のホームスタジアム)。5部リーグのロート・ヴァイス・ハダマーを相手にマインツは練習試合を戦った。
 
 観客は50人。シュミット監督は、前日に出場時間が少なかった選手、あるいは出場しなかった選手をこの試合でプレーさせた。
 
 フォーメーションは、ロビン・ツェントナーをゴールマウスに、最終ラインはゴンサロ・ハラ、レオン・バログン、ニキ・ジムリング、パク・チュホ。中盤はダニー・ラッツァとクリストフ・モリッツが2ボランチを組み、武藤、トドル・ネデレフ、ク・ジャチョルが2列目に並び、パブロ・デ・ブラシスが1トップに入った。
 
 6-0、7-0での圧勝が予想された試合で、武藤も2、3点は決めたかっただろう。しかし、勇敢なアマチュアチームを相手に、3-1という説得力のない結果に終わってしまった。そして武藤の得点もなかった。プロの人生は厳しい。

次ページ2節ボルシアMG戦ではスタメン出場も。

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