現地識者が見たマインツ武藤の開幕戦 それでもあった「2つのアピールポイント」

2015年08月18日 中野吉之伴

ライン際を縦に持ち込み、スタンドを沸かせた。

武藤の開幕戦をエキスパートが検証。「12分間」から今後につながる好材料は見えたのか。 (C) Getty Images

 ベンチスタートだった武藤嘉紀に声がかかったのは、ゲームも終盤に差し掛かった78分。昇格組のインゴルシュタットに先制ゴールを奪われてから12分後だった。
 
 CFフロリアン・ニーダーレヒナーと交代した武藤はそのままFWの位置へ。ユヌス・マッリと2トップの形を組み、ブンデスリーガの初ピッチに立った。
 
 武藤に期待されたのは、序盤からインゴルシュタットの積極的かつ組織的な守備に手を焼いていたチームに勢いを与える起爆剤としての役回りだった。しかし、この日のマインツは全体的にパスミスが多く、武藤にも良いボールが入らない。
 
 守備ラインの裏へ抜け出してパスを呼び込もうとしても、ゴール前に走り込んでクロスに合わせようとしても、味方からのボールは相手守備の壁に跳ね返されるばかりだった。
 
「チームとしてのやりたいことが今日はできていなかった。最後は全部ロングボールになってしまったのは非常に残念だったと思います」と試合後に振り返ったように、1点を追う85分、マルティン・シュミット監督は長身DFのレオン・バログンを前線に投入し、パワープレーに活路を見出そうとした。
 
 チームのパス成功率が70パーセントを割っていた状況で、たしかに指揮官が採りうる打開策は、セカンドボールを狙ったシンプルな放り込みしかなかっただろう。
 
 ところが、終始冷静さを欠き、まるで余裕がなかったこの日のマインツは、単純なパワープレーさえも機能させられなかった。190センチのバログンを狙ったパスもことごとく的を外れ、最後までチグハグなままだった。
 
 ロスタイムにはプレッシャーがない状態でCBニコ・ブンガートがGKにバックパスを出すと、常にチームを温かくサポートするホームのファンからもブーイングが上がった。『ビルト』紙が「こんなことは久しくなかった」と言及したほど異例の事態で、シュミット監督は「いつもの勇敢さが今日は欠けていた」と嘆いた。
 
 途中出場の武藤にとっては、持ち味を発揮するにも、チームに貢献するにも、非常に難しい展開だった。
 
 とはいえ、もう少し工夫はできたのではないか。例えば、ボールの落ち着きどころがなかっただけに、サイドに流れて起点を作る動きをしてもよかっただろう。あるいは、FKを狙ってファウルを誘うようなプレーをしてもよかったかもしれない。武藤自身も、「短い時間でも結果を残して次に行くのが大切」と話していた。
 
 武藤が好印象を残した「アピールポイント」を挙げるとすれば、長い距離を走って相手DFに猛然とチェックに行った投入直後のシーンと、左サイドで相手と競り合いながら強引に縦に持ち込んだ79分のシーンか。79分のこの時は、静まり返っていたスタジアムが一瞬とはいえ沸いた。
 
「ボールを奪うんだ! ゴールを狙うんだ!」という意欲をプレーで表現した武藤に、少なからずファンの気持ちが入り込んだ瞬間だった。
 
「最高のプレシーズンを送れた」とシュミット監督が自信をのぞかせていたことを考えれば、黒星スタートはまさかの結果だろう。チームを取り巻くだけもが、まったく違う開幕戦を思い描いていたはずだ。もちろん武藤もそうだろう。
 
「大型で強靭なCFが必要」とシュミット監督が明言する前線の補強が実現すれば、武藤は本来想定されていたアウトサイドでプレーすることになるはずだ。いずれにしても、シーズンは始まったばかり。気持ちを切り替え、次の試合(2節は23日のボルシアMG戦)にしっかりと備えることが重要だ。
 
取材・文:中野吉之伴
【著者プロフィール】
中野吉之伴(なかの・きちのすけ)/1977年生まれ。ドイツ・サッカー連盟公認A級ライセンス保持者(UEFA-Aレベル相当)で、現在は4部リーグに所属するFCアウゲンU-19監督を務める。育成のエキスパートを志して、大学卒業後に渡独。生活に密着しているドイツ・サッカーの奥深さを日本に還元することをテーマとし、体罰や偏見などなく、だれもがサッカーを生涯楽しめる社会になることを夢見ている。最近は執筆業にも精力的に取り組んでいる。
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