今や“本物”を食う勢いの「偽9番」。だが、輝けるチームは限られている

2022年03月22日 小宮良之

守勢に回った場合、無用の長物と化す

このフォデンなど、マンチェスター・Cのグアルディオラ監督は偽9番を多用している。(C)Getty Images

 偽9番という言葉が、今やサッカー界で定着している。
 
 偽9番とは、センターフォワードの代名詞である9番タイプではないセカンドストライカー、サイドアタッカー、あるいはファンタジスタと言われる選手が9番のポジションに入る。前線でパスの精度やスピードを高め、攻撃に多様性を生み出す。フランチェスコ・トッティ、リオネル・メッシなどが偽9番の先駆けと言えるか。
 
 偽物のはずが、今や本物を食う勢いがある。
 
 マンチェスター・シティのフィル・フォデン、リバプールのディオゴ・ジョッタ、FCバルセロナのフェラン・トーレスなどは一例だろう。スペイン代表もミケル・オジャルサバル(レアル・ソシエダ)、ダニ・オルモ(ライプツィヒ)などをしばしば偽9番で起用。レアル・マドリーのカルロ・アンチェロッティ監督も、カリム・ベンゼマがケガで使えない試合で、偽9番を採用している。

 これだけ有力チームが用いているだけに、少なくともオプションの一つにはなったと言える。
 
【動画】レアル・マドリーがモドリッチを偽9番で起用して批判を浴びたクラシコのハイライト
 偽9番が入ることで、コンビネーションは多彩になる。自由自在にポジションを変え、ボールが入ったら一瞬でチャンスを作り出す。技術精度の高さで上回り、ダイレクトパスでリズムも生み出せる。また、彼らが後ろに引いて中盤の選手が前に飛び出し、サイドに流れたらサイドの選手が中に突っ込む。攻撃全体の変幻さが増すのだ。

 攻撃型チームにとって、究極的には偽9番に行き着くところがあるようだ。
 
 従来のセンターフォワードは敵センターバックと駆け引きし、味方を有利にする。そのパワーや戦闘力がモノを言う。性格的にも我が強く、それによってゴールに迫れる側面がある。ただ、それだけに味方との連係では支障をきたす側面もある。技術面の劣性や一種のエゴイズムが、プレーの高速化や多様性を阻むのだ。
 
 しかし、偽9番が本物の9番の座を根こそぎ奪い取るようなことはあり得ない。
 
 なぜなら、本物の9番がセンターバックと削り合い、頭脳心理戦を続け、消耗戦に挑むことによって、バックラインを疲弊させることもできる。そこで守備の乱れを生じさせ、攻撃はよりダメージを与えられる。また、その駆け引きで上回ったセンターフォワードは、相手をノックアウトするゴールという一撃を食らわせられるのだ。

 そもそも偽9番は、圧倒的にボールを握れるプレースタイル、相応の戦力を持ち合わせたチームでない限り、成立しない。守勢に回った場合、無用の長物と化す。例えばでかく強いセンターフォワードは、高さやポストプレーでつぶれながらでも味方を援護できるし、速いセンターフォワードは裏に走り、鬼のプレッシングをすることで存在感を出せるのだ。
 
 偽9番が輝ける場所は限られている。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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