推定9000万の潜在ファンを取り込め! 【バイエルン番記者】の中国ツアー同行記

2015年07月24日 パトリック・シュトラッサー

メインターゲットは、若くて購買力のあるファン。

中国市場の開拓が今回のツアーの主な目的。選手はさまざまなイベントに駆り出された。 (C) Getty Images

 プレシーズンツアーで中国に赴いたバイエルンは、大きな収穫を手にした。スポーツ面ではなく、ビジネス面でだ。この遠征で多くの人々のハートをつかみ、新しいファンを得ることに成功したのである。
 
「アウディ・チャイナ・サマーツアー2015」と銘打たれた今回の遠征は、北京、上海、広州の3都市を8日間で巡る日程だった。各都市で1試合ずつ、計3試合のフレンドリーマッチを戦い、トレーニングもこなしながら、その合間にはPRイベントが組まれた。強化遠征というより、マーケティングツアーの意味合いが強かった。
 
 1億7000万人と言われる中国のサッカーファンのうち、9000万人がバイエルンに共感を持っているという調査結果がある。その潜在的なファンを確実に取り込もうというのが、ツアーの目的だった。8日間の滞在は、中国遠征4度目にして過去最長だ。
 
 大きな可能性を秘めている中国市場だが、バイエルンは後発組だ。
 
「全力を傾けて後れを取り戻す」
 カール=ハインツ・ルムメニゲCEOの鼻息が荒いのは、この重要なマーケットでスペインやイングランドのクラブに先行を許しているうえに、パリ・サンジェルマンといった新興勢力の追い上げも急だからだ。
 
「この道以外に選択肢はない」とも語るルムメニゲには切実さがこもる。「(今回のツアーでは)ビジネス面とスポーツ面を両立させなければならない」と、現場にも厳しい要求を突き付けていた。
 
 中国はいま、サッカーの普及・強化に国家レベルで取り組んでいる。サッカーを学校の必須科目とし、エリート育成機関として2万校の「サッカー学校」の建設を決めた。
 
 この追い風を一気につかんで中国市場を席巻しようというのが、バイエルンの目論見だ。
 
「バイエルンというクラブの存在を、毎年必ず近くに感じさせることが重要だ」と語るルムメニゲ。そのためには、「現地に赴くことが基本だ」と言う。
 
「それを継続してやることが大切。中国での立場を強めるためには、ピッチでの成功だけでは十分ではない。ファンと直に触れ合わなければならない」
 そのメインターゲットは、若くて購買力のあるファンだ。
 
 ルムメニゲは、こんな打ち明け話もした。『フォルクスワーゲン』の会長で、バイエルンの監査役会会長でもあるマルティン・ウィンターコーンも、「中国の話をする時には目が輝く。サッカーという分野においても、中国はこれからどんどん重要なマーケットになっていくと、彼も確信している」。
 
 さて、スポーツ面はというと、こちらの大きな収穫は、3000万ユーロ(約42億円)でシャフタールから獲得したドグラス・コスタが好パフォーマンスを見せたことだ。
 
「スピードがあって、両足でクロスを上げられる」と称賛したのは、守護神マヌエル・ノイアーだ。トーマス・ミュラーは「チームに軽快さを与えてくれる。足が"軽く"、1対1に強い」と期待を口にする。アリエン・ロッベンとフランク・リベリの代役を、ペップ・グアルディオラ監督はついに手にしたと言えるだろう。
 
 1-0で勝利した遠征2戦目のインテル戦で決勝点を奪ったのは、移籍が取り沙汰されるマリオ・ゲッツェだった。ユベントスから触手が伸びるが、ペップに放出の意向はない。
 
【記者】
Patrick STRASSER|Abendzeitung
パトリック・シュトラッサー/アーベントツァイトゥング
1975年ミュンヘン生まれ。10歳の時からバイエルンのホームゲームに通っていた筋金入りで、1998年にアーベントツァイトゥングの記者になり、2003年からバイエルンの番記者を務める。2010年に上梓した『ヘーネス、ここにあり!』、2012年の『まるで違う人間のように』(シャルケの元マネジャー、ルディ・アッサウアーの自伝)がともにベストセラーに。
【翻訳】
円賀貴子
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