【私が見た大久保嘉人のラストラン】驚かされっぱなしの1年。賛辞と批判の間で戦い続けた男の信条

2021年12月11日 種村亮

主夫とJリーガー、二足のわらじを履く生活

今季限りでの現役引退を発表した大久保。最後の舞台となる天皇杯で、チームをタイトルに導く活躍を見せられるか。(C)SOCCER DIGEST

 11月13日に実施されたC大阪の公開練習。6日後に突然の引退発表を行なう元日本代表FW大久保嘉人は久しぶりの対面取材に「やっぱ(練習場に)お客さんが入るのはいいね。コンディション? 全然いいですよ」と笑顔を浮かべ、20日の川崎戦に向けても「個人としては非常に楽しみ」と意気込んでいた。選手としての姿を見られるのが今年限りとなるとは、その時は想像もしていなかった。

 驚かされっぱなしの1年だったように思う。15年ぶりの古巣復帰。前年は怪我の影響もありJ2東京Vで無得点に終わったことを考えても、戦力として機能するかは不透明なのではないかと正直思っていたが、開幕戦の柏戦でスタメンに抜てきされると、復帰弾となる先制ゴールで勝利に貢献した。

「パスが来れば決められる実感? ありますね」との言葉を証明するかのように以降も好調は続き、開幕からの5試合で5得点。シーズン序盤のチームを支えたのは間違いなく今年39歳を迎えた大ベテランだった。
 
 2月の宮崎キャンプ。「別に今季にかけている訳じゃない」と話していたが、これまではコンディションを上げていくことを目的としていたキャンプに、今回は仕上がった状態で臨んだ。オフの間もきついトレーニングを続けていたといい「今までと違って身体が絞れている」と手応えを口にしていた。周囲の声を結果で見返してやろうという強い意志を感じずにはいられなかった。

 驚かされたのはピッチ外でも同様だった。移籍をきっかけに三男・橙利(とうり)くんとの2人暮らしをスタート。自ら包丁を握ることも多かったそうで「料理のレパートリーは増えました。得意なのは魚の煮付け。難しそうなイメージがあったけど、めちゃくちゃ簡単。びびりました。こんなに簡単にできんの?って。太刀魚は骨がめちゃくちゃ多いんだけど、取り方もYouTubeで見て覚えた」と笑った。「おいしい、って言ってくれたら楽しくなる。そんなこと今まで思ったこともなかった」。主夫とJリーガーという二足のわらじを履く生活は、大久保自身にとっても驚きと発見の毎日だった。
 

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