Jリーグで生まれたCKからのミドル弾。戦術家エメリであればどう防いでいたか?【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2021年11月29日 小宮良之

わずかな位置取りの違いで、プレーは劇的に変化する

用意周到で、ポジショニングに対して執拗なまでにこだわりを見せるエメリ監督。(C)Getty Images

 ビジャレアルを率いるスペイン人監督ウナイ・エメリは、今や名将の一人に数えられるだろう。セビージャ時代にはヨーロッパリーグ(EL)を3連覇し、パリ・サンジェルマンではリーグ・アン優勝、アーセナルではEL決勝に進出し、そしてビジャレアルでは昨シーズン、再びELで優勝を飾っている。

 何より、戦術家としての声望はすこぶる高い。選手晩年に監督人生をスタート。2バックシステムでのプレッシング回避やセットプレーのバリエーション、交代策の妙などで名采配を謳われるようになった。ポジショニングに対してのこだわりは執拗なほどで、それを嫌う選手もいるかもしれないが、論理を追求しているとも言える。

 話は変わるが、先日、横浜F・マリノスがコンサドーレ札幌を迎えた試合があった。左CKをショートでつながれ、左利きの菅大輝のミドルを、GK高丘陽平がニアに食らって先制弾を叩き込まれた。マリノスはその後、終盤に有力選手を投入し、逆転勝利に成功したが、その一点が重くのしかかった。
 
 この失点は何が要因だったのか?

 もしエメリだったら、間違いなくポジショニングを修正していただろう。そもそも、スペインの監督講習ではこうしたセットプレーの基本的ポジションでディテールが求められる。わずかな位置取りの違いで、プレーは劇的に変化するからだ。

【動画】ショートコーナーから札幌の菅大輝が決めたミドル弾
 注目すべきは、ペナルティエリアの右上近くのゾーンを守っていた仲川輝人のポジションだろう。仲川はしきりに中の様子を気にしていたが、彼が気にするべきはキッカーとショートを受けられる位置にいた菅だった。一歩、もしくは二歩、キッカーと菅の間に入るだけで、ショートを回避できただろう。たとえ出されても迅速に近寄って、左足クロスかシュートの選択肢を絞れたはずだ。

 つまり、高丘を含めたマリノスの守備陣が優位性を取ることができた。

 仲川が少し外側にずれたとしても、中に入るボールの質は変わらない。彼の役目はショートを蹴らせないことが第一だったが、それを簡単に許してしまった。たしかに懸命にシューターに寄せていたが、その時点でチームは不利に立っていた。失点の必然が高まっていたのだ。

 この直後の右CK、仲川はポジションをキッカーと菅の間へずらしていた。それによって、キッカーに直接クロスを放り込む選択をさせている。札幌は高さでアドバンテージを取っていただけに、豪快にヘディングで合わせられて危なかったが、高丘がビッグセーブでブロック。マリノスはどうにかボールをかきだし、ピンチを防いでいる。

 エメリだったら、どんな準備で試合に挑んでいたか?

 あるいは、それは選手自身の力量の問題とも言えるが…。采配を振る指揮官が優秀か平凡か。それを示す基準は勝ったか負けたか、にはない。戦術的な勝負は、何より準備がモノを言う。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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