WSD編集長が読み解く「夏の移籍3大ディール」の行方

2021年06月22日 加藤紀幸(ワールドサッカーダイジェスト)

C・ロナウドはユベントスで構想外に

この夏はケイン(左)、C・ロナウド(中央)、エムバペ(右)という大物3人が一気に動く可能性もある。 (C)Getty Images

 コロナ禍で欧州のサッカークラブは例外なく大幅な収入減を強いられており、それに伴い補強の動きはこの夏も鈍くなる可能性が高い。金銭のやり取りが発生する完全移籍は減り、その分、増加するのはレンタルやフリーエージェントの契約で、実際、すでに移籍が決まったダビド・アラバ(バイエルン→レアル・マドリー)やセルヒオ・アグエロ(マンチェスター・シティ→バルセロナ)、ジョルジニオ・ヴァイナルダム(リバプール→パリ・サンジェルマン)、メンフィス・デパイ(リヨン→バルセロナ)は、全員がこの6月で所属クラブとの契約が満了を迎える、いわゆる"ボスマンプレーヤー"だった。

 ただ、そんな状況下においても、クラブや選手、代理人の思惑が複雑に絡み合う移籍マーケットは、この夏もいくつかのサプライズや話題を提供してくれるはずだ。なかでも注目に値するのが、超ビッグネーム3人の動向である。

 ひとりは、退団の希望をクラブに伝えたトッテナムのハリー・ケイン。7月28日で28歳になるストライカーは、チームタイトルを獲得した経験が一度もなく、痺れを切らして移籍の意向を固めたようだ。トッテナム側が設定する移籍金は、1億5000万ポンド(約210億円)。移籍専門記者のディ・マルツィオ氏によれば、マンチェスター・Cがすでに「7000万ユーロ+エメリック・ラポルト+ガブリエウ・ジェズス」のオファーを提示したが、ダニエル・レビー会長に突き返されたという。

 狙っているのは、そのシティにマンチェスター・ユナイテッド、チェルシー、パリSGを加えた主に4クラブ。アラン・シアラーの持つプレミアリーグ最多得点記録(260)の更新を目指すケインは、イングランドでのプレー継続を希望しており、またタイトル獲得を最大目標に掲げていることを考慮すると、有力な新天地候補として浮かび上がるのは20-21シーズンに高い競争力を示したシティとチェルシーで、スパーズと同じロンドンを避けるならシティ一択か。
 
 2人目はクリスチアーノ・ロナウドだ。ユベントスの新監督に就任したマッシミリアーノ・アッレーグリは、C・ロナウドを構想外にしているという。年俸や移籍金の減価償却費を含めると年間9000万ユーロにも上る保有コストもクラブにとって大きな負担になっており、あとは引き受け手が見つかるかどうかだけの問題だ。

 考えられるのは、マンチェスター・Uとの間でポール・ポグバとのトレード、あるいはパリSGとの間でマウロ・イカルディ+金銭でのトレードか。MLS行きの線もあるだろう。

 そして最後が、キリアン・エムバペだ。パリSGのナセル・アル・ケライフィ会長は「売るつもりはない」と頑なだが、契約は22年6月まで。つまりこのまま来年の夏を迎えれば、売ればコロナ禍でも1億5000万ユーロは下らないだろうエムバペを、移籍金ゼロで手放さなければならなくなる。もはや先延ばしにできない待ったなしの状況だ。

 移籍先の最有力候補に挙がるレアル・マドリーも、今夏のターゲットはエムバペ1本に絞っているという。すでに個人合意は取り付けているだけに、焦点はアル・ケライフィ会長を納得させるだけの移籍金を捻出できるかどうか、その1点だ。

 いずれにしても、交渉は長引くはず。移籍金の最高額を更新する可能性もあるこのビッグディールが成立するとすれば、夏のマーケットの期限が差し迫ったおそらく8月下旬だろう。

文●加藤紀幸(ワールドサッカーダイジェスト編集長)
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