連載|熊崎敬【蹴球日本を考える】過渡期か? 頑固に老舗の味を守ってきた鹿島が直面する危機

2015年05月24日 熊崎敬

浦和の良さを抑えることが、それなりにできている。だが一人ひとりになると粗が…。

柴崎もまた「鹿島のメンタリティ」を強く受け継ぐひとり。勝負にもっとこだわれるはずだ。(C)滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

 67分に森脇がオウンゴールを献上した時、鹿島が勝つと予想した。上出来とは言えないが、彼らは浦和の良さを巧みに消しながら試合を進めていたからだ。
 
 浦和最大の強みは、攻撃時に右から関根、李、興梠、武藤、宇賀神と5人が並ぶ最前線にある。彼らが押し包むように攻め、敵が中央に絞ったところをフリーになったワイド(特に宇賀神)から絶妙なクロスが入る。この形から多くの得点が生まれている。
 
 個性的かつ明確な戦術を持つ浦和が首位を独走しているのは、ひとつには対戦相手がそれを消すことに無頓着と言えるからだ。
 
 G大阪もFC東京も「自分たちのサッカー」をしようとして、あっさり押し切られた。FC東京は4人の最終ラインで5人を抑えようとして、宇賀神のクロスから2失点を喫した。
 
 J1を面白くするためには、浦和を止めなければならない。
 
 G大阪やFC東京とは違い、試合巧者の鹿島はこの文脈に沿って浦和を抑えるところから試合を始めた。
 
 李と武藤の2シャドーには小笠原と柴崎がしっかりつき、数的不利を未然に防ぐ。縦パスを受ける敵には後ろから激しく当たり、サイドから仕掛ける敵にも一気に寄せて自由にしない。
 
 鹿島の狙いは的中し、浦和はいつものリズムを失った。苦し紛れのロングパスが増え、サイドを深くえぐることができない。前半のシュート数は3本、CKはゼロ。0-0で終わった前半は、間違いなく鹿島のペースだった。
 
 だが、良い形で試合を進めていた鹿島はオウンゴールの幸運を生かせなかった。71分に武藤、83分に関根にゴールを決められ、勝利どころか引き分けすら逃してしまう。かつての鹿島であれば時計の針を進めながら1-0を完遂させたところだが、それができなかった。
 
 トニーニョ・セレーゾ監督は記者会見で苦渋の表情を浮かべていた。
 
「前半はあれだけ前を向かせてもらえたのに、後半は守備の姿勢が希薄になった。ボールがゴールから遠いところにあるからと思って歩いていて、一気に速い攻めにさらされて後追いになってしまう」
 
 ひと言でいえば集中力の欠如だ。
 
 チームとしては、浦和の良さを抑えることが、それなりにできている。だが、一人ひとりになると粗が目立つ。
 
 危険な場所での浦和のFKで、気を抜いている間に素早くリスタートされてピンチを迎え、同点ゴールを決められたところでは最終ライン3人の反応が鈍かった。
 
 要はぼんやりしているのだ。ぼんやりしている間に、財布を二度も盗られてしまったのが埼スタの鹿島だった。かつてはぼんやりした浦和から、鹿島が容赦なく財布を抜き取っていたが、今では逆になってしまっている。
 
 どうして、こういうことになってしまったのか。

 これはピッチ内で、お手本を示す選手が減ってしまったことが大きいと思う。かつてはビスマルクを筆頭に経験豊かなブラジル人が手本を見せ、それが日本人にも浸透していったが、今では勝負に徹しているのは小笠原くらいしかいない。

 世代交代が進むなかで、伝えるべき大事な文化が断ち切られようとしている。
 
 頑固に老舗の味を守り続けてきた鹿島だが、彼らもいよいよ普通のチームになってしまうのだろうか。
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