【仙台】富田晋伍――ピッチの遠近感を狂わせる“大きな”ボランチ

2015年05月11日 古田土恵介(サッカーダイジェスト)

浦和戦の先制点を生んだ、絶妙なポジショニングとボールハント。

ピッチを縦横無尽に動き、ボールを狩る。堅守をベースにする仙台にとって、中盤の番人たる富田の存在は欠かせない。写真:田中研治

 記者席から試合を観戦していて、ふと違和感を覚える瞬間がある。手元にある今季の選手名鑑で富田晋伍の欄を再確認してピッチに目を落とすと、プロサッカー選手の第一線で活躍する男の凄みを感じずにはいられない。
 
 今季からキャプテンマークを腕に巻く富田の最大の武器は、熟練した達人を思わせるボールハントだ。いち早く危険なエリアを察知し、素早く寄せ、狩る。豊富な運動量で様々なシーンに顔を出す彼は、ピッチ上の遠近感を少しだけ狂わせる。
 
 身長は公称169センチ。守備型ボランチのなかでは体格に恵まれているとは言い難い。実際に仙台を除いたJ1の17クラブのレギュラー格を見渡してみると、170センチ以下は皆無に等しい(鳥栖の高橋義希が170センチ、川崎の大島僚太が168センチ)。だが、2節の柏戦や今節の浦和戦では確実にそれ以上の存在感があった。実際よりも「大きく見えた」のだ。
 
 守備能力の高さは、名古屋に所属する元日本代表の田中マルクス闘莉王が、同僚の望月嶺臣に「(富田の)動きを見ろ」とアドバイスした逸話があるほど。また、以前に「うちはまず堅守を築くことから始まる」と語っていた渡邉監督は、その側面で富田に大きな期待と信頼を寄せる。
 
 浦和戦では、リーグ戦初先発・初出場となったキム・ミンテとコンビを組んで、中盤のフィルターとして大いに機能。8分に生まれた先制点は、富田の抜群の読みを活かしたボールハントから始まった。
 
 浦和の柏木と梅崎の両方をケアできる位置にポジションを取り、那須から縦パスが入る瞬間にスイッチを入れて柏木へのボールをカット。キム・ミンテ、野沢と渡り、そしてフリーランを続けたキム・ミンテが最後に右足を振り抜いてネットを揺らした瞬間、富田はゴール前まで攻め上がらずにセカンドボールを拾える位置に陣取っていた。
 
 さらに圧巻だったのは、オープンな展開となった後半だ。何度もピンチの芽を摘み取った富田への評価は、近くにいた記者(察するに浦和担当か)がしてくれた。「また富田だ」。
 
 この"また"が、富田の勲章だろう。確かにチーム4点目となる梁のゴールをアシストするなど攻撃面でも輝きを放ちはしたが、彼を大きく見せていたのは守備での貢献度の高さに起因する。

 試合後のミックスゾーンでアシストについて訊かれた富田は「勝点3を取りにいったゲームだったので、得点につながる状況にしたかった」と口にし、こう続けた。
 
「仙台はまずは守備のチームだし、4失点したことは反省しないといけない。失点が多いようでは勝点3を取れる試合にならない」
 
 確かに仙台は連敗を5で止めた。しかも首位の浦和を相手に一時は2点ビハインドから逆転まで演じている。

 だが、勝てなかった。信頼の証を腕に巻くチームの心臓にとって、たとえどんな強敵が相手であろうと、たとえどんなに自分のパフォーマンスが良かろうと、勝点3をサポーターに届けられなければ不十分なのだ。
 
 ミックスゾーンで取材対応を終えた富田は、握手をしてスタジアムを後にした。改めて双肩にかかる荷の重さと、ピッチでの大きさを感じさせられた。
 
取材・文:古田土恵介(サッカーダイジェスト編集部)
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