エジルに「4250万ポンド」の価値はあるのか 【アーセナル番記者】が真価を問う

2015年04月07日 ジェレミー・ウィルソン

イングランドへの“適応期間”はもう終わった。

改めて真価が問われるエジル。4250万ポンドの価値を証明できるか。 (C) Getty Images

 4250万ポンド(約73億円)――。アーセナルのメスト・エジルの話題になると、決まって議論になるのがこの移籍金の額だ。
 
 アーセナルは2013年夏、英国史上3番目となる高額でエジルを獲得した。レアル・マドリーやドイツ代表での活躍から考えれば、むしろ市場価格を下回る安価で手に入れたというのが当時のもっぱらの評判だった。
 
 その評価は180度変わった。エジルに4250万ポンドの価値は見出せない。巨額に見合うだけのパフォーマンスを見せているとは言えない。これが現時点でのコンセンサスだろう。
 
 ちなみに、英国史上最高額の移籍金はアンヘル・ディ・マリア(R・マドリー→マンチェスター・ユナイテッド)の5970万ポンド(約101億円)で、次点はフェルナンド・トーレス(リバプール→チェルシー)の5000万ポンド(約85億円)だ。
 
 直接FKで鮮やかにネットを揺らし、パスで攻撃陣を操った31節リバプール戦(4-1)のプレーぶりはたしかに素晴らしかったが、好パフォーマンスを維持できないのが、エジルが抱える問題だ。いわゆる消えてしまう試合が少なくない。リバプール戦にしても、相手のプレスの甘さに助けられたとの見方もできるだろう。
 
 マーカーに激しく寄せられると、簡単にボールを奪われてしまうという欠点とともに、指摘されているのがピッチ外での問題行動だ。
 
「仮病疑惑」が持ち上がったのは3月21日だ。体調不良を理由に30節のニューカッスル戦を欠場しながら、その当日夜、ベルリンのナイトクラブで目撃されたのだ。
 
 代表招集を受けていたこともあり、体調が芳しくなかったエジルにアーセン・ヴェンゲル監督は早期帰国を許していた。「友人の誕生日を祝うため1時間半だけナイトクラブにいたようだ」とヴェンゲルは擁護したが、あらぬ誤解を招く軽率な行動だったと言わざるをえない。
 
 チャンピオンズ・リーグで物議を醸したのは、モナコに敗れた決勝トーナメント1回戦の第2レグだ。ハーフタイムにモナコのMFジョフレー・コンドグビアとユニホームを交換したのだ。試合途中のユニホーム交換は、とくにイングランドで反感、ひんしゅくを買う行為で、クラブへの忠誠心を疑われ、サポーターを敵に回しかねない振る舞いだ。
 
 もちろん、ここでエジルを「失敗」だと断じるつもりはない。巧みなパスワークで攻撃にリズムを生み、質の高いオフ・ザ・ボールの走り込みでラストパスを引き出すエジルは、攻撃にクオリティをもたらす貴重な存在だ。
 
 事実、エジルが膝の怪我で離脱した昨年10月以降、アーセナルの攻撃はクリエイティビティを欠き、成績も下降線を辿った。決定力の高いアレクシス・サンチェスに素早くボールを預けることでなんとか急場を凌いだが、エジル不在の攻撃は奥行きも深みも失った。
 
 それが一転、エジルが復帰するとチームは急浮上。復帰したストーク戦(1月11日の21節)からここまで、エジルが出場した試合は8勝1敗だ。アーロン・ラムジーなど同じく故障で離脱していたキープレーヤーが同時期に復帰してきたことも大きいが、エジルの復帰がひとつのきっかけになったのは間違いない。
 
 26歳のドイツ人がイングランドにやって来て約18か月が経過した。ピッチ内外での"適応期間"はもう終わりだ。
 
 4250万ポンドのその価値を、エジルは証明しなければならない。
 
【記者】
Jeremy WILSON|Daily Telegraph
ジェレミー・ウィルソン/デイリー・テレグラフ
英高級紙『デイリー・テレグラフ』でロンドン地域を担当し、アーセナルに精通。チェルシーとイングランド代表も追いかけるやり手で、『サンデー・タイムズ』紙や『ガーディアン』紙にも寄稿する。
【翻訳】
田嶋康輔
 
 
 
 
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