【山形】歓喜の瞬間へと導いた「ハイプレス」

2015年03月23日 頼野亜唯子

バックアップメンバーが見せた意地と突き上げが刺激となる。

絶え間なく上下動を繰り返し、攻守に存在感を示したキム・ボムヨン(22番)。74分には値千金の決勝弾を決めた。 写真:佐藤 明(サッカーダイジェスト写真部)

 ホーム開幕戦を待ちわびた1万2000人のサポーターの前で、J1復帰後初勝利――。過去1分5敗と、一度も勝てなかった川崎を相手に「俺たちはこのやり方でJ1へ残留する」と言わんばかりに、真っ向から立ち向かい勝点3を掴んだ。

【J1 PHOTOハイライト】1stステージ・3節

 相手の思うようにはさせまいと、立ち上がりからハイプレスを仕掛けた山形は攻撃の起点となる中村には松岡、アルセウの両ボランチに加え、FWの川西までもが目を光らせながらチェックに行く。

「時間を与えるとやられてしまうので、多少遅れてもいいからファーストディフェンスがしっかりアプローチをかけて、周りの選手がカバーする。ひとりでは抑えられないような選手は人数をかけて囲い込んだ」(石川)と話すように、各々が守備を意識しながらプレスの網にかけた。

 さらに、サイドの攻防でも主導権を握る。「今日のようなプレーを目指して日々頑張ってきた」と振り返った左WBキム・ボムヨンは、前線へのパスに何度もスプリントしてゴールへ迫り、守備では最終ラインまで戻って汗をかいた。

 その無尽蔵のスタミナで攻守に渡り抜群の存在感を示すと、遂には大役までも果たす。74分、右の舩津から上がったハイクロスの落下点にはエウシーニョが入ったが、競った川西に阻まれ中途半端なクリアに。そのこぼれ球に反応したキム・ボムヨンが右足を振り抜くと、抑えの効いた低い弾道のシュートが川崎のゴールを捉えた。

 このゴールが選手たちを勇気づけたのか、やや低下していた運動量は息を吹き返す。必死で山形の守備網に穴を開けようとする川崎の攻撃をことごとく跳ね返し、待望の瞬間を迎えた。

「チーム一体となって前からのプレスが上手くハマっていた」
 試合後の会見で石﨑監督がこう話したように、勝因はハイプレスが機能したことに尽きる。その伏線は18日に行なわれたナビスコカップ・清水戦(○3-1)にあった。

「リーグ戦に出ていない選手が前線から素晴らしいプレスをかけて勝った。良いお手本を見せてくれたんじゃないかなと思います」(石﨑監督)

 4日前に公式戦初勝利を挙げた勢いもさることながら、そこで見せたバックアップメンバーの意地と突き上げ。これもまた、今季リーグ戦での初勝利への要因だったろう。

 もちろん、この一勝でJ1の戦いを楽観できるほど、選手も監督もサポーターもウブではない。あくまでも「一歩前進」(石川)であり、「真価を問われるのは次のゲーム」(石﨑監督)。山形の戦いは、まだ始まったばかりだ。

取材・文●頼野亜唯子(フリーライター)
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