【アジアカップ】不屈のサッカルーズ 最後まで戦い抜いた感動の戴冠

2015年01月31日 熊崎敬

勇敢に身を投げ出したその敢闘精神が実を結ぶ。

土壇場の失点のショックを引きずることなく、最後まで戦い抜いたオーストラリアがアジアカップ初優勝。不屈の精神が勝利を呼んだ。 (C) Getty Images

 優勝まで残りわずか……。
 スタジアム・オーストラリアにつめかけた大観衆が、赤く染まった韓国人を除いて総立ちになった。巨大なスタジアムが男たちの野太い歌声に揺れる。それは感動的な光景だった。
 
 だが、勝負は終わっていなかった。
 韓国の攻勢にさらされた開催国は91分、ロングボールをクリアできず、ソン・フンミンにゴールをこじ開けられてしまった。
 
 ほぼ手中にしていたタイトルが逃げていく。7万近い人々が悲嘆し、天を仰いだ。その光景を見て、もうオーストラリアは立ち上がれないかもしれない、と思った。
 
 グループリーグ第3戦の対戦で韓国が1-0で勝ったように、両国の力関係は技術、戦術ともに韓国が一枚も二枚も、オーストラリアを上回っている。勝利を目前にして追いつかれた彼らは、そのまま韓国に飲み込まれてしまうのではないか――。
 
 だが、"サッカルーズ"は不屈だった。
 彼らはそれまでやってきたように、球際で懸命に身体を張り、堅実にパスをつなぎ、ミスを恐れず前に進む姿勢を貫いた。
 
 オーストラリアは韓国のようにプレーできない。キ・ソンヨンのようなスタイリッシュな選手はいないし、ソン・フンミンのような決定力、突破力を備えた選手もいない。
 
 だが彼らはファイトすることができる。言い換えれば、ファイトすることしかできない。そのことを知る彼らは、ひたすら泥臭く戦い続けることで韓国にプレーをさせず、互角の勝負に持ち込んだ。
 
 オーストラリアは延長戦になっても、土壇場の失点のショックを引きずることがなかった。ただ、できることをひたすらやり続けた。そして延長前半終了間際の105分、その努力が実を結ぶ。
 
 ケイヒルに代わって投入されたユーリッチが身体ごとキム・ジンスを押し込み、ゴールライン際を強引に抜く。
 
 右ポストは目の前。完全な王手。
 
 ゴール前にこぼれたボールを、走り込んできたトロイージが鮮やかに突き刺した。
 
 肉弾戦で奪い取った値千金のゴール。この1点を、オーストラリアは今度は大事に守り抜き、勝利のホイッスルを聞いた。
 
 それは実にオーストラリアらしい勝利だった。
 
 サッカーに加えてラグビーやオージー・フットボールと多様な「フットボール」に精通する彼らは、この競技が小手先のテクニックだけでは決まらないことを知っている。下手くそなら下手くそなりにボールを進め、敵のボールを押し戻せばいい。彼らは勇敢に身を投げ出し続け、しぶとい韓国人をねじ伏せたのだ。
 
 下手くそなチャンピオンの誕生。
 オーストラリアはボールが思い通りに動かせなくても勝負に勝ち、人の心をも動かした。こういうゲームに、私たち日本人は学ばなければならないはずだ。
 
取材・文:熊崎敬
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