【中澤佑二/この一枚】プロフェッショナルとしての真の姿は、むしろ練習場にあった

2020年05月14日 徳原隆元

まさに鉄人と呼ぶに相応しい戦歴

仕上げのクールダウンの際、中澤はこちらを気遣い、「良い写真、撮れましたか?」と笑顔を見せる。写真:徳原隆元

「良い写真、撮れましたか?」

 2013年3月26日。広角レンズを付けたカメラを構えると、ランニング中の中澤佑二さんは視線をこちらに向け、笑顔でそう言った。声をかけてきたのは、彼のインタビュー取材のために訪れた、こちらへの気配りだったのだろう。

 淡い日が降り注ぐ春の練習グラウンドには彼しかない。笑顔の一枚は全体練習のあと、ひとり居残って個人練習を行ない、仕上げのクールダウンの際に見せたものだ。

 気さくな笑顔はいかにも中澤さんらしい。だが、その快活な姿よりも彼らしさが投影されていたのが、チーム練習後の個人練習であり、サッカー選手としての本質をそこに見た。

 個人練習はハードだった。全体練習が終わったあとに、遊び心でボールを蹴るようなレベルではまったくなかった。なによりボールを使わない。負荷のかかるベストを着込み、ボックスの台を使って跳躍力を鍛えては、坂道を登って体幹を強化する。こうしたタフで地味なメニューによって、得意としていたヘディングの強さが養われ、1対1の勝負強さが形作られていったのだろう。
 
 それから5年後の2018年シーズンを最後に、中澤さんは現役を引退する。恵まれた体格を武器に、東京ヴェルディと横浜F・マリノスで700試合以上の公式戦でピッチに立ち、フィールドプレーヤーとしては歴代最長となるJ1リーグ178試合連続フル出場を果たし、日の丸を背負って110試合を戦った。まさに鉄人と呼ぶに相応しい戦歴である。

 万全の状態で試合に臨むため、終わりなく自分を鍛え続ける。20年にも及ぶ現役生活で、常に第一線で活躍してきた理由は、件の地味な個人練習だったのだと思う。

 ハードな練習をひたむきにこなして、その他の時間では笑顔を見せる。中澤さんのプロフェッショナルとしての真の姿は、試合だけでなく練習場にもあった。いやむしろ練習場にあったのだ。

取材・文・写真●徳原隆元

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