【福岡】存続の危機に直面した2013年の経営危機が、理念実現へと邁進させる転機に

2020年04月28日 中倉一志

クラブと行政、地域の企業と住民が一体となった決戦

J1昇格プレーオフのC大阪との決勝戦、中村北斗が右足を一閃し、同点弾を突き刺す。スタジアムは歓喜の渦に。(C)J.LEAGUE PHOTOS

 アビスパ福岡の25年の歴史を振り返る時、決して忘れてはならない出来事が2013年10月に発覚した経営危機であることに異論をはさむ者はいないだろう。資金繰りが滞り、11月末には運営資金約5000万円が不足することをはじめ、14年1月期の決算で2年連続の赤字と、約2780万円の債務超過が発生することが明らかになり、チームは存続の危機に立たされた。

 しかし、福岡の老舗企業『株式会社ふくや』による支援をはじめ、地元サポーター、さらには全国のJリーグサポーターの多大なる支援により、当面の運営資金不足を回避。翌年8月には株式会社アパマンショップホールディングス(現APAMAN)グループの株式会社システムソフトが1億円規模の出資を行なって債務超過を解消し、2015年にはアパマンショップホールディング社が新たに経営に参画してクラブ再建に乗り出した。この一連の流れで、アビスパは生まれ変わった。

 新たにクラブ経営の責を担った川森敬史代表取締役社長が最初に着手したのは、経営体制の改善だ。それまでの問題点にひとつずつ取り組み、丁寧に、そして迅速に改善を図った。また、行政は地域の誇りとしてアビスパを位置づけ、従来から活動を続けるアビスパ福岡後援会に加え、福岡青年会議所の会員、OB、地元企業経営者らが中心となったAGA(アビスパ・グローバル・アソシエイツ)が新たな支援組織も発足した。そしてもちろん、地元ファン、サポーターたちのクラブを支える意識も以前にも増して高まりを見せた。
 
 そして迎えた2015年シーズン、行政、地元企業、そして福岡の街を愛する人たちに支えられたチームは、確実に成長を遂げていく。開幕3連敗と最悪とも言えるスタートだったが、4節から11戦負けなしとV字回復を果たすと、その後も順調に勝ち星を重ね、31節からは12戦負けなし。最後は8連勝を飾ってJ1昇格プレーオフに進出。その戦いぶりはクラブと行政、地域企業、地域住民が一体となったことを示すものだった。

 その象徴とも言える試合が、ホーム扱いでありながら対戦相手のC大阪のホームスタジアム、ヤンマースタジアム長居で行なわれたJ1昇格プレーオフ決勝戦だ(試合会場は事前に決定)。ゴール裏に結集したサポーターは約9000人。クラブを愛する気持ちがスタジアムをホームに変えた。その想いを背負って戦う選手たち。C大阪に先制点を許すも、J1昇格への想いは揺るがない。

 そして1点ビハインドで迎えた終了間際の87分、右サイドの角度のないところから中村北斗が右足を一閃し、ゴールネットを揺らす。スタジアムは歓喜の渦に包まれた(試合は1-1のドローだが、大会規定により年間順位が上のアビスパがJ1に昇格)。
 

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