「無傷で乗り越えるのは不可能」“コロナショック”に直面したサッカー界の未来【現地発】

2020年04月11日 エル・パイス紙

2つの大戦は乗り越えたフットボール界だが…

「フットボールは未曽有の危機に直面している」と警鐘を鳴らしたユベントスのアニェッリ会長。(C)Getty Images

 新型コロナウィルスの猛威が止まらない。現代社会はIT化とグローバル化を2本柱に急速な進化を遂げてきたが、わずか4か月足らずの間にその成長を支えてきたシステムが崩れ去った。

 我々スペイン人は、つい最近まで深刻な経済危機に見舞われていた。そのプロセスの中で政治家と企業経営者が不況脱出のための戦略を考案し、それが効果のあるものであると考えられていた。しかし世界中の都市を麻痺させ、多くの人々が日常生活を破壊されたいま、その謳われていた安心・安全はどこにあるというのか。フットボールももちろんその例に漏れない。

 ユベントスと欧州クラブ協会の会長を務めるアンドレア・アニェッリは、フットボールは未曽有の危機に直面していると警鐘を鳴らした。フットボールの商業化が一気に進んだ最近25年に範囲を限れば、彼の言うとおりだろう。

 各国でリーグ戦が創設されて以来、フットボールはこれまでも様々な危機を経験してきたのも事実だ。その最たるものが2つの世界大戦だ。しかしフットボールはその悲劇的な事態をほぼ無傷で乗り切った。

 幸いだったのが、競技としてまだ産声を上げたばかりだった点だ。当時はまだテレビ放映権料やスポンサーといったものはなかった。クラブの収入源はホームゲームの入場料にほぼ限定されていた。関係者はそのまま敷かれたレールの上を走っているだけで、成長軌道に乗ることができた。トップマネジメントは未成熟で、各国の連盟が存在していただけ。フットボール選手としての労働条件も明文化されておらず、スペインでは契約が満了しても自由にチームを移籍することすら許可されていなかった。
 
 翻って、今日のフットボールは商業主義の流れが加速化する一方だった。世界中の熱狂的なファンに支えられ、とりわけヨーロッパのフットボールは最高級のプレーを見せる選手たちとチームを「商品」として売りに出し、営業収益を伸ばし続けた。

 逆に言えば、それだけフットボールというビジネスが複雑化、高度化し、そこには企業家、財界人、関連組織、国際機関、テレビ局、スポンサー、選手協会、そして政府と各団体の様々な利害が錯綜する。当然、ファンも健全な運営のために消費者として欠かせない存在であるが、発言権は持ち合わせていない。

 そんな最中に、"コロナショック"がフットボールを襲い、全ての関係者を右往左往させている。まさに不測の事態であり、この危機を脱するための知識、手段、リソースを持ち合わせているのかどうかすら定かではない。

 この窮地をフットボールが無傷で乗り越えることは不可能だ。かといって、力と正義を前面に押し出して解決できる類のものでもない。しかしこのまま問題を放置していると、事態はさらに悪化するのは避けられない。

 待望されるのは真のリーダーの出現だ。そして彼らが中心となって各団体からコンセンサスを取り付けながら、急ピッチで今後数か月間のロードマップを作成し、課題を一つ一つ解決する必要がある。

 これまでは商業化の流れに乗っていればそれでよかった。しかし今、本当の意味で関係者の知恵と勇気と決断力が問われている。いうまでもなくこれは極めて過酷なチャレンジだ。しかし相応の成果を実現できなければ、アニェッリが警告するようにフットボールの未来には暗雲が立ち込めることになりかねない。

文●サンティアゴ・セグロラ(エル・パイス紙)
翻訳●下村正幸

※『サッカーダイジェストWEB』では日本独占契約に基づいて『エル・パイス』紙の記事を翻訳配信しています。
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