「ベテランにとっては難しい」“降格なし判断”に群馬DF渡辺広大が発した勇気ある言葉

2020年03月29日 伊藤寿学

ベテラン選手にとって「失われた1年」になってはいけない

今季の”降格なし”という決定がどう響くのか。渡辺のようなベテランにとっては不利に働く可能性も。(C)J.LEAGUE PHOTOS

 新型コロナウイルスの影響を受けるJリーグは3月19日、今季のJ1とJ2で「昇格あり」「降格なし」の特例を採用することに決めた。

 リーグ延期の最中、先が見えない状況での特例発動だ。過密日程やスケジュール面の公平性やクラブ財政を考慮してうえでの救済措置。もし、試合数減、観客数減でシーズンが進み、降格となればクラブの存続に関わる問題になりかねない。今季J2へ昇格した小規模クラブの群馬にとっても、経営的に安堵する話でもあった。

 今季の群馬は「J2残留」を目標に掲げて始動していた。「降格なし」の話題は、すぐにチーム内に広まった。

 特例が発表された当日の練習後、報道陣の囲み取材に応じたキャプテンの渡辺広大は「こういう状況なので、いろいろと止むを得ない部分があると思います。まずは、サッカーができることに感謝したいです。選手たちは、手洗い、うがいなどを徹底して、再開へ向けて準備するだけです」と前置きしたうえで、「降格なし」について話した。
 
 今年33歳の渡辺は「僕らのように比較的、年齢が上の選手にとっては難しい面も出てきます。チームの昇格の可能性が消えて、降格の危険性がなくなれば必然的に"消化試合"が増えてしまう。チームが来年へのシフトを考えれば、若手の起用が増えて年上の選手の出番が減ってしまう可能性もあります。僕ら選手は、最後まで真剣勝負がしたいと思いますし、1年1年が勝負なので、残念な部分もあります」と、ひとりのプレーヤーとして複雑な表情をみせた。

 プロ16年目の渡辺は市立船橋高を卒業後、仙台、山形、山口でプレーし2019年に群馬へ。11年の仙台時代には東日本大震災で被災し、ろうそく1本の生活を体験した。昨季はJ3でフル出場、昇格のかかった最終節で値千金の先制ゴールを決めるなどJ2昇格の原動力となった。全試合に出場したことでプレーコンディションは著しく向上した、このCBがいなければ群馬がJ2に上がることはなかった。

 今季は、渡辺にとって2年ぶりのJ2の舞台。奥野僚右新監督から主将を託され、「J2残留」という新たなミッションへ挑むはずだった。その矢先での「リーグ中断」と「降格なし」決定。降格なきリーグがどんな形で進んでいくのか。ベテランという立場を考えれば、不安は募る。「若手起用が増える」「チームの若返りのチャンス」などという声も聞こえてくる状況下で、チームの姿勢が問われることになる。

 コロナ禍のJリーグだが、ベテラン選手にとって今季が「失われた1年」になってはいけない。あくまで実力勝負。渡辺が、勇気を持って発した言葉の意味は重い。これは個人ではなくリーグ全体で考えるべき問題だろう。

取材・文●伊藤寿学(フリーライター)
 

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