【山形】天皇杯ファイナルに導いた山田拓巳の決勝点 川西翔太が「泣きそうやった」と語った理由

2014年12月12日 頼野亜唯子

同点とされ、川西は相当ヘコんでいた。

決勝点となる勝ち越しゴールを挙げ喜ぶ川西(左)と山田。ホッとしたようなふたりの表情が印象的だ。(C) SOCCER DIGEST

 12月13日、山形はクラブ史上初めて天皇杯決勝の舞台に立つ。その試合開始の笛が鳴る前に、決勝への扉を開くことになったひとつのゴールと、逞しくもナイーブな男たちの心模様を記しておきたい。
 
 11月26日、ヤンマースタジアム長居で行なわれた天皇杯準決勝の千葉戦。山形は2-2で迎えた71分、センターライン付近でボールを受けた川西翔太がそのままドリブルで持ち上がり、速攻からチャンスを掴む。
 
 左にはロメロ・フランク、中央には松岡亮輔、右からは山田拓巳が上がっていたが、3人の位置を確認した川西は山田を選択。サイドから中に入りながらパスを受けた山田は、倒れ込みながらゴールに叩き込んだ。そして立ち上がると一目散に川西の元へ走り、抱き合って喜びを分かち合った。
 
「嬉しかったですよ。俺はホンマ、泣きそうやったもん」
 そう川西が振り返ったのは、それが決勝進出を手繰り寄せるゴールだったから、というだけではない。
 
「ふたりで取れたことが、俺としてはめっちゃ嬉しかった」
 
 その理由は、決勝点から17分前の失点の場面にあった。2-1と山形がリードしていた54分。山形陣内でチャンスを窺う千葉のパス回しが甘くなったところを、川西が見逃さずにカット。ところがその後に出したバックパスは誰もいないスペースに流れて敵に拾われると、谷澤のテクニカルなシュートで同点とされた。
 
 川西の不用意なミスに見えた。だが、山田は別のことを言った。
「翔太君のバックパスを、俺が感じていなかった。自分から動いてボールを要求していればああいう風にはならなかった場面。自分が横着して止まってしまっていたせいで、申し訳なかったと思う。翔太君もヘコんでいたはず。ふたりで失点に絡んでしまったから、それをふたりで取り返せたのが嬉しかった」
 
 確かに、川西は相当ヘコんでいた。
 
「感覚でやってしまった軽いプレーが失点になってしまった。何通りも選択肢がある中で最悪の選択をしてしまって、自分の中でいろいろ整理がつかなかった。周りを活かすプレーをしたいのに、俺がミスしたら活かせない」
 
 GKの山岸範宏に「取り返せるポジションにいるんだから、自分で取り返せ!」と檄を飛ばされたことも、最初は上の空で聞いていた。リザーブのR・フランクが準備を始めた時には、交代は自分かもしれないと覚悟したが、交代はベテランの山崎雅人。指揮官の信頼は揺らいでいなかった。
 
「あそこまでがんばってくれたザキさん(山崎)の分とか、まだ使ってくれる監督やコーチに応えるためにも、このまま引きずっていたらアカンなと思った」
 そうして得た挽回のチャンスで、あの決勝ゴールが生まれたのである。
 
 この試合の後に続いたJ1昇格プレーオフでも、川西と山田のホットラインは相手チームの脅威となる。特に磐田との対戦では、面白いようにふたりのコンビでゴールチャンスを創り出した。
 
 だが残念ながら、G大阪から期限付き移籍で加入している川西は、契約上、G大阪との試合に出場できない。売り出し中のホットラインはお預けになる。それでも山形は決勝戦のジャイアントキリングを狙っている。ここまで一緒に上り詰めてきた、29番の思いとともに――。
 
取材・文:頼野亜唯子

【J1昇格プレーオフ決勝】 山形 1-0 千葉 ――2014.12.07
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