【山形】天皇杯決勝、ガンバにどう挑む?――報道陣を煙に巻く指揮官の胸中はいかに

2014年12月12日 頼野亜唯子

「ワシ、優勝したことがないんよ。だから優勝したいんじゃ」

決勝戦に向けて、石崎監督はいかなる策を講じてJ1王者を攻略するだろうか。

 山形県天童市にある、モンテディオ山形の練習場。1週間前にピッチに降り積もった雪は、すぐさま駆けつけたサポーター有志によってグラウンド脇に寄せられたが、その後の雨にもかかわらず、未だ融けずに白く残っている。
 
 6位で終えたリーグ戦から、天皇杯準決勝を挟んでプレーオフの2試合を戦った山形は、劇的な勝利を重ねて昇格を勝ち取った。しかし、その喜びの余韻は練習場のどこにも見当たらず、チームはすでにクラブ史上初めての、そして今季最後の戦いである天皇杯決勝戦に向けて準備を始めていた。
 
 2時間ほどの練習を終え、今年から山形の指揮を執る石崎信弘は、待ち構える報道陣の輪の中へ。ネックウォーマーを鼻が隠れるほど上げ、ニットキャップを目の上まで下ろしているのは寒さゆえだろうが、表情を読み取られまいとしているように見えなくもない。
 
 主な質問は当然のことながら、G大阪とどう戦うか、である。
「ガンバ相手に勝つのは難しいだろうけど、来年J1でできることになったこのタイミングで、J1で優勝したチームと試合ができる。そこで何ができて何ができないかを見て、できないところを補強したり、トレーニングしなくちゃいけない」
 
 まるで、強敵相手の練習試合にでも臨むような口ぶりだ。そうかと思えば、
「全部できたらどうしよう! ACLだよ!」
 おどけて報道陣を笑わせる。
 
 石崎個人にとって天皇杯決勝戦は初めてではない。柏を率いていた08年に、山崎雅人が在籍していたG大阪と決勝で対戦、延長の末に敗れた。雪辱を果たしたい気持ちはあるはずだが、「勝つのはええんじゃけど、J1に残留しなきゃならない状況の中で、ACLに出るのは無理だよお」と、今度は駄々をこねて見せる。
 
 百戦錬磨の石崎のことだから、飄々とした表情の裏で、三冠を狙う盤石のJ1王者のどこに蟻の一穴を穿つべきか、策を練っていないわけはない。だが、手の内らしきものは見えない。
 
「パトリックと宇佐美、あのふたりはすごいね。コンビネーションもいいんだよね。宇佐美からのパスでパトリックのゴールというのもけっこうあるし。あとはMVP(遠藤保仁)だね。すごいね、34歳でMVP!」
 
 攻略のポイントを尋ねても、敵のエースを褒めちぎり、巧妙に話をずらしていく。期限付き移籍の契約で、古巣G大阪との対戦に出場できない川西の話の方が、まだ具体的だ。
 
「宇佐美? ファウルでしか止められないっしょ(笑)。まあ、あいつにボールが渡る前のところで早めになんとかするしかない」
 
 山形の監督に就任した今シーズンの初め、石崎はJ2優勝を目標に掲げた。J1自動昇格が念頭にあったのはもちろんだが、それだけではなかった。あの頃は、はっきりとこう言っていた。
「ワシ、優勝したことがないんよ。だから優勝したいんじゃ」
 
 昇格の切符は手にしたものの、リーグ成績は6位。だが、石崎自身も予想していなかっただろうが、今、「優勝」が手に届く所にぶら下がっている。泣いても笑っても今シーズンが終わる12月13日。試合終了の笛が吹かれた時、一筋縄ではいかない石崎の「してやったり」の笑顔は見られるだろうか。
 
取材・文:頼野亜唯子

【J1昇格プレーオフ決勝】 山形 1-0 千葉 ――2014.12.07
 
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