【湘南】「監督がいてもいなくても…」「もう一度競争し激しく」連続大量失点のチームが、今こそ取り戻すべき原点

2019年10月10日 隈元大吾

川崎戦も鋭い出足でタイトに寄せ、ボールを奪いもしたが…

神奈川ダービーで大敗を喫してしまった湘南。ひとつの失点でチームが大きく崩れてしまった。写真:滝川敏之

 湘南は28節節、川崎をホームに迎え、0-5で敗れた。前半のうちに4失点すると、ゲーム終盤にも追加点を浴びてしまう。0-6の敗北を喫した前節の清水戦に続く大量失点だった。

 決して立ち上がりが悪かったわけではない。個々に出足は鋭く、タイトに寄せて幾度かボールを奪いもした。中盤の攻防は互いに激しさを増し、川崎に容易にはポゼッションを許さなかった。だが15分、カウンターからコーナーキックを与えると、その流れの先でオウンゴールを献上する。

 くだんの先制点は、谷口彰悟のヘディングシュートがブロックによってコースを変えた、湘南からすれば予期せぬ要素も含まれた失点だった。だが以降、歯車は徐々に軋み出す。プレッシングが一つひとつ後手を踏み、対して相手の攻撃は活性化した。3連覇に向けて勝利を譲れぬ川崎がゴールをこじ開けるのはそれからほどない。21分に中村憲剛がボックスに躍り出て仕留めると、26分には阿部浩之が、35分には小林悠が続いた。

 中盤で持ち前のボール奪取を随所に示した金子大毅が唇をかむ。
「奪えるところは奪えていたし、あんなに失点するほどチームとして前半悪いわけではなかったと思う。1失点目も、セットプレーまで持ち込まれた自分たちも悪いですけど、少し事故的な感じで入ってしまった」
 
 4点のビハインドを負った湘南は、それでも後半に入り、選手交代とともに反攻を強めた。ボールロストは散見されたものの、たとえばボランチから左ウイングバックへポジションを移した鈴木冬一がドリブルで敵陣深くへ斬り込み、決定的な場面を演出する。かたや川崎も堅く、逆に81分には途中出場の長谷川竜也がシュートをねじ込み、ゴールラッシュを締め括った。

「失点すると自信がなくなってしまうのかなと思う」高橋健二コーチは選手たちの胸中を思いやりながら振り返る。
「もう一度自分たちらしい戦い方をしようと前半からアグレッシブに入り、失点するまでは良い奪い方もしていましたが、攻撃でロストが多く、守備に追われる展開のなかでああいう形で失点してしまった。選手たちはいままでどおりトレーニングから手を抜かずにやっている。精神的なケアも含めて、原点に戻り、いままでしっかりやれていたことを取り戻すのが大事」

 湘南はこれまで、一歩ではなく半歩、1センチではなく1ミリを大事にしてきた。そうしたディテールの追求によって、球際や動き出しで相手に先んじ、またシュートブロック然り、ゴール前での粘り強い守備を体現した。逆に言えば、試合ですべてを出し切るために、トレーニングをはじめとするあらゆる要素を突き詰め、勝利の確率を高めてきた。だからこそ昨季のルヴァンカップ初優勝は成し得たと言えるだろうし、今季も彼らはさらなる景色を見せてくれそうなたくましさを示していた。監督の不在はその根底を揺るがすのだから、いままでと寸分たがわぬパフォーマンスを求めるのは酷に思えてならない。
 

 
 だがそんな尋常でない状況においても、自分たちのやるべきを彼らは誰より自覚している。鈴木は言う。
「出場機会を与えられた選手が100%、120%でプレーすることが、プロサッカー選手としての義務。僕は監督がいてもいなくても自分のスタンスは変わらない。騒がしい状況ですけど、11人がコンパクトにして最後まで粘り強く戦うこのチーム本来の良さを全員で共有し、もう一度出せれば勝利に繋がると思います」

金子も自分たち自身に矢印を向けた。
「あっさりやられるところがあるので、そこは変えないと勝てないし、そういう危機感を全員が持たなければいけないと強く思いました。練習でやってきたことが試合に出ると思うので、練習から全員でもう一度競争し、激しくやっていかなければいけない。みんなそれぞれ、やらなければいけないと思っているはず。それを実行するだけだと思います」

 週が明け、10月8日付けで曺監督は退任した。湘南は新たに招へいする監督のもとで佳境の季節を戦うことになる。彼らが原点を傾ける場所は、まだ6試合残っている。

取材・文●隈元大吾(フリーライター)
 

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