偉大な名手の引退から1か月…己の道を進み続ける鳥栖に“トーレス・ショック”は見られない

2019年09月29日 荒木英喜

ホームゲームの観客動員も大きな変化は見られない。むしろファンサービスは増えている

 8月23日の神戸戦でフェルナンド・トーレスが引退してから1か月余り。世界的スーパースターであり、常に全力でプレーする模範的な選手を失った鳥栖だが、チームやクラブの変化は見受けられない。
 
 金明輝監督は「トーレスがいようが、いまいがそれは関係ないですね。FWのトーレスという選手がいなくなっただけで今まで彼に依存してプレーしてきたわけではないですし、チームとして誰かが抜けてもできるというチーム作りをしてきたつもりなので、それに対してのストレスは見て分かる通り、ないと思います」と言い切る。

 この言葉どおり、金明輝監督はトーレスを特別扱いすることなく、一人の選手として起用してきた。前任のルイス・カレーラス監督に代わって監督に就任した直後の11節・G大阪戦では5分、翌12節の広島戦では1分の出場時間しか与えていない。その後もベンチスタートなどが多かったが、10節・大分戦以来7試合ぶりに先発起用した際は2ゴールを挙げる活躍を見せた。このように選手のコンディションを練習からしっかりと見極め、競争に勝ち得た選手を先発で起用するという、ごく当たり前のことを金明輝監督は行なってきた。戦術に関しても同じことが言える。トーレスに合わせた戦術を採っていたわけではなく、常に攻撃的な戦術を念頭にチーム作りをしてきた。

 最近の公式戦では天皇杯4回戦・C大阪戦で4ゴール、J1リーグ27節・浦和戦では3ゴールを奪った。ゴールを量産できるようになったが、これをトーレス引退後の変化と捉えることもできる。しかし、それは短絡的で、むしろ金明輝監督が就任時から「ラストパス、フィニッシュの精度を上げないといけない。練習から取り組みます」と話していたことが、ここに来て実を結び始めたと考えた方がいい。
 
 ホームゲーム入場者に関しても大きな変化はない。トーレス引退後のリーグ戦のホームゲーム2試合の平均入場者は14646人。トーレス引退前の21節まで(引退試合の神戸戦はカウントせず)の平均入場者は14526人なので100人以上増えている。

 強いて変わったことを挙げるとすれば、公開練習日であってもほとんど行なわれていなかったファンサービスが、トーレス加入前と同じように行なわれるようになったことくらい。

 偉大な選手が引退しても鳥栖は鳥栖らしく、自らの進むべき方向に向かって進んでいる。ただ、まだトーレスが引退して1か月余り。今後なんらかの形でトーレス引退の影響が出るかもしれないが、鳥栖の歩みが大きくブレることはないだろう。

取材・文●荒木英喜(フリーライター)

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