【浦和】 逆転優勝へのキーマン、那須大亮 「目の前の戦いに勝つ」

2014年12月05日 塚越 始(サッカーダイジェスト)

1対1の戦いに全身全霊を賭けてきた男。

「ダイちゃん、サンキュー!」
 練習メニューの紅白戦で、よくピッチから聞こえてくるフレーズだ。
 
 M・リシャルデス、関口、山田ら高い技術を備えた選手たちの巧みな連係からシュートチャンスが訪れる。そこで立ち塞がるのが、3バックの要の位置(=リベロ)に入る那須だ。ガツンと音が聞こえてきそうなほどの激しいタックルを見舞い、ボールを奪い取る。球際の強さ、いやボールに対する執念と言ったほうがいいだろうか。溢れる気迫はチームのなかでも抜けている。
 
 もちろんそういった負けん気は選手の誰もが持っているが、那須の場合、その気迫が身体の内から放出される熱とともに観ている者へストレートに伝わってくる。そしてチームメイトも、彼の身体を張った守備に、感謝を惜しまない。
 
 紅白戦は二度の給水を挟んで、40分以上が経過する。そのあたりになると、間断なく攻守の切り替えを続けてきた選手たちにもさすがに疲労の色が見え始める。ペトロヴィッチ監督はそういった苦しい状況下でも精度の高いプレーを求めている。
 
 そこで那須の大きな声が響き渡り、全体の空気を引き締める。
「マキ(槙野)、少し(ラインを)上げよう」
 グッと、最終ラインが高めに設定される。間髪入れずにタイミング良くGK西川からは「絞ろう、モリ(森脇)!」と指示が飛ぶ。
 
 こうして、苦しい時間帯を凌ぐための盤石な守備態勢が敷かれる。那須のひと声が、チーム全体をも動かしたと言えた。同時に、今季リーグ最多の16試合、J1新となる7試合連続というふたつの無失点記録を作った浦和守備陣の「阿吽の呼吸」が垣間見えたワンシーンでもあった。
 
「ビビったら、そこで終わり。なんにもできない。相手が強気で来たら、それ以上に強気でいけばいい」
 幾多の歴戦のアタッカーと対峙してきた那須は、そう強調する。相手に呑まれたり、弱気の虫を見せたりしたら、その時点で負けだ。とにもかくにも、目の前にいる相手に勝つこと。その先にゴールがあり、勝利がある――。
 1対1の戦いに全身全霊を賭けてきた男の言葉には説得力が伴う。
 
 鳥栖戦のCKからのロスタイム弾で、浦和は14試合守り続けてきた首位の座から陥落した。1試合を通して、エース豊田を封じ込むなど守備の組織はほぼ完璧に機能していただけに、「最後まで我慢できていたが……」と、那須もショックを隠し切れなかった。
 
「でも、決して下を向く必要はない。最後、勝つしかない」
 プロでのキャリアは13年目を迎える。その間、喜怒哀楽の連続で、かなり乱高下の激しい浮き沈みを味わってきた。ただし、そうやって手に入れた信念は、至ってシンプルだ。
――目の前の戦いに勝つ。
 
 その相手は、時に屈強なFWであり、時に自分自身でもあっただろう。
「赤いユニホームを着るのは、プロになって初めて。鹿実(鹿児島実高)が赤だったから、運命というか、原点に戻ってきた感じがする。僕はピッチに立つと、気持ちがたぎってくるほうだから、まさに赤はもってこいのカラー」
 昨季、浦和への移籍が決定した直後、那須はそう少年のような笑みを浮かべて語っていた。
 
「この年齢になっても(当時31歳)、オファーをもらえて移籍できるのはとても有り難いこと。レッズへの恩返しに止まらず、恩送りをしたい。レッズを応援しているあらゆる方のために、この恩を送りたい」
 
 ピッチ上では熱いが、普段は謙虚で気配り屋の"ダイちゃん"だ。言い返れば、そんな優しさや仲間を大事にする男気が、闘争心の源泉になっていると言える。
 
 背番号4のユニホームに袖を通した瞬間に火はともり、その源泉を沸騰させた那須が、戦闘モードに入る。明日のホーム埼スタでの名古屋戦、彼はこれまでと同様に、目の前の戦いに勝つことに全力を傾ける。奇跡や優勝を語るのは、それからだ。
 
文:塚越 始(週刊サッカーダイジェスト)
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