歴史的ドリブル弾も空しく……トリノはダービーの歴史に抗えず

2014年12月01日 週刊サッカーダイジェスト編集部

1995年以来のダービー勝利に大きく近づいたトリノだったが…。

スーパーゴールを妻とファンに捧げたブルーノ・ペレス。トリノにとっては、ダービーでの11試合ぶり(12年ぶり)の得点だった。 (C) Getty Images

 ジェレミー・メネーズがハーフウェーライン付近からのドリブルで見事なゴールを決めてミランに勝利をもたらした日、トリノではさらにすごいドリブルショーが披露された。
 
 ユベントスとトリノによる「トリノ・ダービー」。セリエA3連覇中で今季も首位を快走する世界的強豪と、AとBを往復する中堅クラブの対決だが、歴史的なゴールは"格下"トリノから生まれた。
 
 自陣ペナルティエリアでボールを得て、ドリブルを開始したのはブルーノ・ペレス。今季、サントスから加入したブラジル人はスルスルと敵陣内を進み、ペナルティエリアまで到達すると、右から鋭いシュートでGKマルコ・ストラーリを破った。
 
 ユベントスDFの寄せが追いつかないまま、約78メートルを走り抜いてのドリブル、そして正確なコースを突いたフィニッシュは、誰からも称賛されてしかるべきものだった。
 
 地元紙「ガゼッタ・デッロ・スポルト」も、1988年のニコラ・ベルティ(バイエルン戦)、96年のジョージ・ウェア(ヴェローナ戦)、そして昨シーズンのガレス・ベイル(バルセロナ戦)のスーパーゴールを引き合いに出して、ペレスのゴールを褒め称えている。
 
 しかしこの24歳の右サイドプレーヤーが披露したドリブルショーも、チームの勝利には結び付かなかった。この衝撃を打ち消してしまうほどの劇的な決勝ミドルを、ユベントスのファンタジスタ、アンドレア・ピルロが93分に決めたからである(スコアは2-1)。
 
 これで、ユベントスはトリノ・ダービー7連勝、不敗記録は17試合に伸び、通算では64勝41分け34敗。両チームの差は広がることとなった(セリエA創設以前のリーグやコッパ・イタリアなど、全ての対戦記録を加えると96勝62分け72敗)。
 
 近年の両チームの状況を見れば、妥当な結果とも言えるが、試合前にユベントスのマッシミリアーノ・アッレグリ監督は「ダービーでは全てがリセットされる。それまでの結果やチーム状況は関係ない」と警戒を緩めることはなかった。
 
 その一方で、会長のアンドレア・アニエッリはこのダービーを軽視する発言をし、これに対してトリノのジャンピエロ・ヴェントゥーラ監督が「アニエッリ会長が言うことは正しい。我々は勝っていないのだから」と冷静に受け流すというやりとりもあった。
 
 力が拮抗した者同士の対決となるミラノやローマのダービーに比べれば、注目度は高くないトリノ・ダービー。29-30シーズンのセリエA初対決以来、トリノが「グランデ・トリノ」と呼ばれて栄華を誇った40年代を除けば、ユベントスがほとんどの年代でリードし続けてきた。
 
 ユベントスから飛び出したスタッフがトリノを創設したという経緯もあり、実力差に関係なく両者のライバル意識は強い。またトリノ市内においては、世界的な人気を誇るユベントスよりトリノの方が支持を得ていることもあり、ダービーでは選手もファンも熱くなる。
 
 ファン同士はたびたび暴力騒ぎを起こしたことがあるが、ピッチ内でも事件は起きてきた。最も印象に残るは2002年2月24日、89分に殊勲の同点ゴールを挙げたエンツォ・マレスカ(現パレルモ)が喜びと興奮のあまり、牛の真似をしながらピッチを駆け回ったことだ。
 
 牛(トーロ)はトリノの愛称であり、マレスカのパフォーマンスはトリノサポーターにとっては挑発と映り、スタジアムは騒然したものだが、逆にユベントスにとっては痛快そのもので、いまだマレスカはユベンティーノから好意的に見られているともいう。
 
 36-37シーズンに15戦目にして初勝利を挙げ(そこから連勝)、42-43シーズンは5-2、67-68シーズンには4-0という大勝を飾るなど、強大な宿敵相手に幾度も土をつけてきた古豪トリノだが、それ以上に屈辱を味わうことが多かった。51-52シーズンには0-6というこのカードでの最多得点差で敗れており、95-96シーズンにも0-5という大差をつけられている。
 
 そして今回。95年4月9日、ルッジェーロ・リッツィテッリの2ゴールで2-1と勝利を挙げて以来の白星は、確実にトリノの元に近づいていた。決勝点のチャンスは幾度も到来し、さらにユベントスのステファン・リヒトシュタイナーが退場処分を受けたことも、"下剋上"達成を後押ししていた。
 
 しかし、ロスタイムで奈落の底へ……。期待が高まった分、ファンの失望と怒りは大きく、王者を敵地であと一歩まで追い詰めたチームを野次るという行為に走らせた。そしてヴェントゥーラ監督は敗戦に対して謝意を示すも、ファンには苦言を呈することを忘れなかった。
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