【J1昇格プレーオフ】磐田 1-2 山形|GK山岸が決めた“奇跡の”決勝ゴール!

2014年11月30日 頼野亜唯子

「ボールに触ることだけを考えていた」

殊勲の決勝ゴールを決めた山岸をチームメイトが祝福。攻守両面で守護神が大活躍を見せた。(C) SOCCER DIGEST

「もう一度やってみろと言われても、できない」
 
 山形をプレーオフ決勝に導く、奇跡のようなゴールを決めた男は、試合後のミックスゾーンで笑顔を見せた。90分間、最後尾から仲間を鼓舞し続け、磐田のシュートを何度もはじき返した。引き分けならリーグ戦上位チームの勝利。プレーオフに延長、PK戦はない。通常なら守護神に用意されているはずの見せ場はレギュレーションにより奪われていたが、山岸にとっての見せ場は、後半アディショナルタイムに待っていた。
 
 1対1のまま試合を終わらせようとポゼッションする磐田からもぎとった右CK。石川がボールをセットし、山岸が磐田ゴール前に上がっていく。
 
 この時間帯のCKで、GKが上がって攻撃に参加するのはよく見られる光景だ。上背のあるキーパーはそれだけでディフェンスを1人分引き付けられる。だがこの時、磐田の山岸へのマークは甘かった。石川が蹴った瞬間、山岸はニアサイドで待ち構えていた前田の前に回り込み、無骨なジャンプでボールを頭に当てた。
 
「ゴールを狙っていたわけではなく、触ることだけ考えていた」というボールは、ゴール前に密集する磐田の選手たちの頭上を緩やかに越え、ファーサイドのゴールネットを揺らした。美しい軌道を描いて――。
 
 プロ生活14年。浦和で、日本代表で、数々の経験を重ねてきた山岸の、プロ入り初ゴールだった。チームメートが駆け寄り、倒れ込んだ山岸の上に次々と折り重なって、大きな身体は見えなくなった
 
 あまりにもドラマチックなゴールシーンに忘れてしまいそうになるが、守護神・山岸の活躍はこの日も素晴らしかった。開始10分、山崎のシュートを指先で弾いたセーブから始まり、磐田からしてみれば憎らしいほどのしつこさでボールに食らいつく。
 
 先制したものの前半終了間際に追いつかれた山形が、磐田ペースで進んだ後半にもギリギリで追加点を許さず踏みとどまれたのは、この男の高いセービング技術とキャプテンシーに負うところが大きいだろう。
 
 GKが目立つ試合は良くない、と言われる。しかしこの試合だけは、スポットライトを浴びるにふさわしい男はただひとり、山岸範宏しかいない。
 
取材・文:頼野亜唯子
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