【J2】ブラジル人は日本人の倍働く? 「ダニエルの生産性」が問い掛けるもの|千葉 2-1 大分

2014年10月20日 熊崎敬

ふたり分に相当する質、量の仕事をした。

敗れたとはいえ、パフォーマンスが際立ったダニエル。その「生産性」が日本サッカーに問い掛けるものとは――。(写真は36節松本戦) (C) SOCCER DIGEST

 千葉が大分を2-1で退けたフクアリでのJ2上位決戦は、最後の最後まで目が離せない好勝負だった。
 
 千葉は15分、谷澤達也の巧みなコントロールショットから幸先よく先制する。だが大分も選手交代を使って巻き返し、89分、為田大貴が美しいミドルを突き刺す。土壇場での劇的な同点ゴールに、大分ベンチは優勝したかのような騒ぎとなった。
 だが、決着はついていなかった。同点弾の直後、森本貴幸が鋭い反転から豪快に左足シュートを突き刺し、ふたたび大分を突き放す。千葉は価値ある勝点3をつかみ取った。今季初の3連勝で後続を突き放し、3位磐田の背中も勝点5差と視界に捉えた。
 
 それにしても、大分には悔やまれる一戦となった。
 7分のアディショナルタイムが経過し、西村主審の笛がタイムアップを告げた瞬間、大分の選手4人がピッチに崩れ落ちた。無理もない。プレーオフ圏内再浮上が懸かった直接対決を落したのだ。森本の反転を許した土岐田洸平には、つらい夜になっただろう。
 
 結果はともかく、この試合の大分は素晴らしかった。
 後半途中、彼らは4バックを3バックに変え、ラインを大胆に上げて千葉を執拗に押し込み続けた。サイドの狭い局面で起点を作り、選手が次々と顔を出し、短いパスを巧みにつなぎながら敵陣に穴を開けていく。技巧派揃いの千葉に、一歩も退かない戦いを見せたのだ。
 
 その大分の中で圧倒的な存在感を示したのが、9月に加入したダニエルだった。甲府と名古屋で5年間プレーしたブラジル人は、4-1-4-1の最終ラインと攻撃陣をつなぐ「1」のポジションで、ふたり分に相当する質、量の仕事をした。
 
 敵の圧力を受けながら最終ラインからのパスを引き出し、確実に前を向く。そして複数のマークを搔い潜り、ボールを運ぶ。もしくはフィニッシュにつながる好パスを出す。
 追いかける立場となった後半には、自陣深くで敵ふたりを引きつけ、一気に間を抜き去るという大胆なプレーも見せた。
 前半のダニエルは、自分が創ったチャンスを仲間に2度潰されて怒っていたが、後半になると周りが上手く呼応してチャンスが生まれるようになった。
 
 日本人が複数でやるプレーを、ダニエルはひとりでやることができる。こうした解決能力の高い選手がいれば、監督や同僚も助かるだろう。
 彼のプレーを見ていて、ぼくはブラジル・ワールドカップのコロンビア戦を思い出した。コロンビアに翻弄される日本代表を見て、サンパウロ在住の知人が苛立ち交じりにこう話していた。
「日本人は前にボールを運べないから、サッカーにならないのよ。敵に進路を遮られると、すぐに横に逃げる。でも、それじゃあ勝負にならないのよ」
 そう、ダニエルは知人が話していた「日本人が目指すべきプレー」を目の前で見せてくれたのだ。
 
 Jリーグが誕生して22年、日本サッカー界は組織力に活路を見出そうとしてきた。
 守備も、攻撃もみんなで。ボールを奪うことも運ぶことも、ボール保持者が前を向くのも、ひとりではなく何人かでやろうとする。それは日本人の気質に合っているかもしれないが、本来ならひとりでできるに越したことはない。
 
 ボールをひとりで奪う選手がいれば、周りは攻撃に専念できる。
ひとりでゴールを決める選手がいれば、周りは守備に専念できる。解決能力の高い選手が多いほど、チームは安定した試合運びができるし、負けているときリスクを負うことが可能になる。
 終盤、大分がリスクを負って前に人数をかけられたのも、ひとりでふたり分の働きをするダニエルがいてこそだった。
 
 ブラジルにはダニエルのような解決能力の高い選手が無数にいる。日本がシンガポールで完敗したセレソンは、圧倒的な解決能力を備えたタレントの集合体。同じ11人でも、日本人とブラジル人とでは生産性が倍ほど違う。それが0-4というスコアになった。
 
「いつもみんなで」では、いつまで経ってもブラジルには追いつけませんよ――。
 良い試合を観たはずなのに、重い課題を突きつけられたような気分でフクアリを後にした。
 
取材・文:熊崎敬
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