ミランでの復調は本物か――本田圭佑を「フィジカル」的側面から検証

2014年10月03日 澤山大輔

動きの質自体は向上しているが――。

開幕5試合で3ゴールと好スタートを切った本田。復調は本物か、身体的観点から考察した。 (C) Alberto LINGRIA

 ミランで劇的とも言える復調を遂げ、ハビエル・アギーレ監督を迎えた日本代表でも引き続き活躍が期待される本田圭佑選手について、身体的な観点から分析を試みます。
 
 本田選手は現在ゴール、アシストともに結果を残しています。ブラジル・ワールドカップ前後の状態から、目ざましい回復と言えるでしょう。ただ、あくまで身体の動きを分析する限り、結果を残しているにもかかわらず、本田選手の身体が好調である感じは受けません。
 
「初速が速くなった」という評価が多いようですが、個人的にはそのようにも感じません。ワールドカップ時の最悪期は脱し、動きの質自体は向上していると思いますが、「初速が速くなった」と見える要因はどちらかといえば、「判断力が高まった」ことによるものではないでしょうか。以下、なぜそう考えるかの根拠を説明させていただきます。
 
 まず、ミランで好調を保っている現在(2014年9月~)のプレースタイルについて。VVV時代(08年頃)のような身体のキレがなくなり、それを判断力の向上で補っているという印象を受けます。本田選手は体幹がアップライト(直立)に保たれている分、非常に視野が広く、味方および相手の動きもよく見えています。
 
 特に、味方が作ったスペースに入っていったり、相手の隙を突いて裏を取ったり、といったプレーが目立ちます。こうした「どこに走るか」という判断力は、最悪の時期と比べれば明らかに向上しています。判断力が向上したことで動き出しが速くなり、良いポジションが取れ、シュートを打つところまで結びついているのだと思います。
 
 ただ、時系列で見ていくと、本田選手は身体的にはやはりキレを失っていると考えられます。少し時間を戻して、VVV時代のプレーを思い起こしてください。当時の映像を見てみると、左右前後への切り返しやドリブル、フェイントなどに非常にキレがあり、狭いスペースでも相手をかわしていくプレーができていました。ダブルタッチをした後に、トップスピードに乗るのも速い選手でしたね。また、中盤で相手が密集している場面でのボールキープにも長けていました。
 
 しかし現在は、こうしたプレーができなくなっているようです。それは、まず右膝に問題があるせいでしょう。左利きですから左足でボールを扱うことが多く、必然的に右足を軸にすることが多くなります。軸足を使う際に、軽い動きならいいのですが、フェイントでかわすなどの動作には瞬発的な動きが要求されます。特に、体幹をブレさせないために股関節の内旋(内側にねじる)の動きが強く求められるのですが、本田選手は右の膝が内側に入ってしまっています。
 
 股関節が内旋することによって膝下の下腿が外側に向く、この状態を『ニーイン・トーアウト』と呼びます。この状態は、右膝に対して様々な負傷を引き起こす原因となります。本田選手が右膝を痛めた大きな原因は、この『ニーイン・トーアウト』のクセにあるのではないでしょうか。現在は踏ん張りが効かず、シュートにせよスルーパスにせよ、以前ほど強いボールを蹴れなくなっているように思います。踏ん張りが効かなければ、当然ながらボールキープ力も低下してしまいます。
 
 右膝に負荷がかかる要因はまだあります。本田選手は背骨の柔軟性が低く、特に側屈・回旋の要素が固くなっているようです。つまり、背骨の柔軟性が低い分、『代償動作』(ある動作が困難な時に別の動作、あるいは別の筋肉で補う動作)として右膝に負担がかかっている印象を受けます。
 
 それから、トラップの精度を欠くシーンも以前より多い印象を受けます。本田選手は11年8月に右膝半月板を損傷し、13年2月に左足首を負傷しています。シュートに限らずパス、トラップの際には足首の柔軟性が要求されますが、昨年8月の時点で本田選手は「左足首にテーピングをしている」という記事が出ています。ひょっとすると、現在も同様にテーピングをしているのかもしれませんね。テーピングをすれば足首の柔軟性はなくなり、プレーの正確性に影響が出ます。

次ページ左右の重心移動が大きく、下半身が重たい印象。

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