【Jコラム】前例のない磐田の抜擢人事。元日本代表コーチの大木武氏がユース監督を引き受けた理由

2014年09月06日 高橋伸子

「ユースだからといって『育成』という意識はまったくない」

2010年の南アフリカ・ワールドカップでは、コーチとして日本代表を支えた大木氏(中央)。A代表でのコーチ経験を持つ指導者がユースチームを率いるのは異例だ。(C) SOCCER DIGEST

 Jリーグのトップチームで監督を務めたキャリアのある指導者が、ユースチームを率いる例はあまりない。ましてや、A代表のコーチングスタッフを経験した人物が高校・ユースレベルのチームを率いたとなると、おそらく前例はないだろう。
 
 昨年まで3シーズンにわたり京都の監督を務めた大木武氏が、今シーズンから磐田のユース監督に就いている。清水や甲府でトップチームの監督を歴任した後、07年からは当時の岡田武史監督の下で日本代表のコーチを務め、南アフリカ・ワールドカップでの闘いを支えた。そんな確固たる実績を持つ指導者が率いるユースチームは、現在、他にはない。大木氏の起用は、特筆すべき人事と言える。
 
 昨シーズン終了後、磐田からのオファーを受けた際、周囲からは「トップチームからのオファーを待つべきでは?」とのアドバイスもあったと言う。だが、大木氏は、「やってくれとお願いされたのだから、『こちらこそお願いします』という気持ちで引き受けるのが筋」と就任を即決した。
 
「ユースとトップとどちらの監督をやりたいかと問われれば、それはトップの監督をやりたい。しかし、サッカー選手を指導するという点では、トップもユースも何も違いはありません。自分の指導法もテーマも、トップチームを預かった時と何も変わらないし、変える必要がないと思っています。海外では、17、18歳でトップで活躍する選手も多いのですから。ユースだからといって『育成』という意識もまったくないですね」
 
 指導哲学は一貫している。どのポジションであっても「攻守」ができる選手にすること。手を抜かず常に自分の持てる100パーセントの力を、90分間出し切れる選手にすること。そして、サッカーを「プレーできる選手」にすること。この3つが軸だ。
 
「プレーできる選手と言うと、当たり前だと思われるかもしれませんが、つまりは自分のサッカーを表現するということ。そのためには、フィジカルの強さや技術の正確性を上げなければならないし、こちらのオーダーを咀嚼する理解力、試合の流れの中で的確なプレーを自分で選ぶ判断力がなくてはいけない。今言ったことは、どこでどんなサッカーをしようが必要なことです」

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