前橋育英高の山田耕介監督が“昨年度選手権優勝校”の知られざる秘話を明かす

2018年12月27日 サッカーダイジェストWeb編集部

珠玉の言葉の数々が散りばめられた「高校サッカーのバイブル」と言える一冊

「前育主義」~逆境でも前進できる人を育む~
山田耕介 著/価格:本体1400円+税/12月14日発売/(株)学研プラス

前育主義(前橋育英サッカー部監督・山田耕介著)

 自らのことをあまり語らない謙虚で寡黙な指揮官だ。試合後の囲み取材では、聞かれたことには答えるが、それ以上のことを威勢よく口にすることはない。今年の選手権抽選会会場では前年度優勝校にもかかわらず、抽選後には報道陣の目を盗むようにして、そそくさと控え室へ消えた。これまで報道陣は、試合後の囲み取材のコメントをパッチワークのようにつなぎ合わせて、その人物像を作り上げてきたように感じる。しかし、実際のそれとはギャップがある。

 昨年度の選手権で就任36年目にして初の日本一。そのほかにも準優勝2回、4強4回という戦績を残し、70人以上のプロ選手を輩出。だが無冠だった故、スポットライトを浴びることは少なかった。その代わりに、「日本一勝負弱い監督」という称号を授かった。

「山田耕介」とは、どんな人物なのか。

「俺の本が売れるのか」と著書発行に懐疑的な指揮官を、何度も説得して本書の制作にこぎつけた。この1年間、前育の練習場はもちろん、馴染みのしゃぶしゃぶ専門店、住みかとしている前育選手寮のアパート一室などに帯同させてもらい、指揮官とともに編集作業を進めていった。ピッチ上では厳格な指揮官だが、襟を緩めたあとにみせる姿は、豊かな感性とやさしい心を持ち合わせた一人の教師であり、3人の子を愛する父親だった。

 島原商時代の恩師・小嶺忠敏監督(長崎総合科学大附監督)によると名将と呼ばれる指揮官たちはそれぞれ約20年で全国制覇にたどり着いているという。そんな中で、山田監督は最長の36年を要している。小嶺監督は「いまの若い人たちに36年間という時間の意味を考えてほしい。耕介の優勝は、夢に向かってチャレンジする人たちすべてに大きな希望を与えてくれた。教え子として誇りに思う」と目を細める。
就任当初、不良少年だらけのサッカー部での奮闘、夭折のサッカー小僧・松田直樹との思い出、そして昨年度の選手権制覇の知られざる秘話を集録。「お金や名誉のためではなく、選手の未来のために指導している」(山田監督)。日本一勝負弱い監督」と呼ばれた日本一の指揮官が、まっすぐな言葉で、指導・育成、チームマネジメントについて記した本書は、珠玉の言葉の数々が散りばめられた「高校サッカーのバイブル」と言えるだろう。
 
(構成担当・伊藤寿学)
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