【小宮良之の日本サッカー兵法書】 スペイン史上最高のストライカーを生んだ貪欲な“学び”の姿勢

2018年11月22日 小宮良之

真似、反復練習を繰り返して何を掴んだ少年時代

スーパースターが集うマドリーで、常に特別な存在であり続けたラウール。まさに「名手」という言葉がぴったりのストライカーだった。 (C) Getty Images

 小説『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で、主人公の広瀬ゆうは、身体が大きくはないし、足が速くもなく、力も強くなく、飛び抜けて上手くもない。それでも、プロサッカー選手に憧れ、日々、仲間たちと奮闘する。そして、ストライカーとしての才能を見つけ出した指導者がカタルシスを与えるのだが――。
 
 プロサッカー選手になる素養とは?
 
  それを突き詰めた時、フィクションの登場人物にリアリティーを与えたのは、ノンフィクションで取材した時の一流選手の子ども時代だった。
 
 スペイン史上最高のストライカーのひとり、ラウール・ゴンサレスは、12歳でスカウトに見そめられている。
 
「当時のラウールは痩せて、背も低かった。ただ、ボールに食らいつく姿勢とシュートのためのボールコントロールやポジションの取り方、それとスペースに入るタイミングが抜きん出ていた」
 
 ラウールを見出したスカウト、フランシスコ・デ・パウラは、そう説明していた。ストリートサッカーをたまたま見ただけで、声をかけたという。点取り屋の才能とは、特殊なものだ。
 
 ラウールはゴールするたび、その成功を自信に繋げ、得点のかたちを作り出し、さらにゴール数を重ねていったという。
 
 特筆すべきは、その貪欲さだった。あるゲーム、18-0でリードし、ラウール自身、ダブルハットトリック(6得点)を達成していたにもかかわらず、ボールを脇に抱えてセンターサークルに戻し、相手チームにゲーム再開をせき立てていたという。ゴールに対する飢えは、収まることがなかったのだ。
 
 その渇望は、向上心とも言い換えられ、学習意欲にも繋がっていた。
 
 例えば、週末に自分の試合が終わると、日曜日には別のカテゴリーを観戦し、朝から晩まで4、5試合をハシゴしたという。そこで見たゴールのかたちを記憶。それを練習で真似て習得した。
 
「サッカーでは、二度と同じプレーは起こらない」
 
 それはセオリーなのだが、ラウールはしつこくシュートの反復練習を欠かさず、コーチに頼み込み、ボールを受け、反転からシュートというかたちを、飽きることなく繰り返している。どのようにスペースを作り、マークを外し、ボールを叩くのか――。
 
「FWは、決して突っ立つな!」
 
 ラウールは、その薫陶を心に刻んだ。
 
  その後、ラウールは17歳の時にレアル・マドリーでデビューを飾り、十代にして富を手にした。しかしその後も、その生き方は何も変わらず、サッカー選手として技を改善し、ゴールを決め続けた。
 
「もっと、上手くなりたい」
 
 巨大な情熱は擦り切れず、心のなかにずっとあった。だからこそ、ラウールは余人の辿り着けない境地に届いたのだ。
 
「サッカーが好き」
 
 それは、才能を動かす燃料のようなもので、動かし続けることによって、さらに大きなエネルギーを生み出せるのだ。
 
文:小宮 良之
 
【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。
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