【W杯ストーリー】敗れざるメッシ、自負とともに堂々と去り行く

2014年07月14日 熊崎敬

立派に国を背負い、アルゼンチンの人々に夢を見せたのだ。

勝負を挑み続けたメッシだが、あと一歩及ばず……。それでも、やれるだけのことはやったという自負が、試合後の振る舞いから見て取れた。 (C) Getty Images

 3度目のワールドカップは、またしても敗北に終わった。メッシは黄金のトロフィーを手にすることができなかった。
 
 アルゼンチンの人々は大会前から、「メッシがカップをつかむんだ」と歌っていた。それは過去2大会には見られなかった光景だった。
 
 メッシはかつて疑われていた。
 バルセロナではゴールを量産しながら、アルゼンチン代表では期待を裏切り続けていたからだ。13歳という若さでバルセロナに渡った彼に、多くの人々が「あいつはアルゼンチン人なのか?」と疑いの目を向けていた。
 
 だがアルゼンチンの人々は、メッシに世界制覇の夢を懸けた。
 厳しい試合で消える弱々しい少年は、欲しいところで決めてくれる頼もしい男に変わったからだ。
 
 過去2大会で8試合・1得点と平凡な数字しか残していないメッシは、ボスニア・ヘルツェゴビナとの初戦で決勝ゴールを決めた。自身のマラカナン・デビューを飾るゴールによって、「いままでの俺とは違う」ところを誇示してみせた。
 
 メッシは、だれもが認めるアルゼンチンの王様だ。
 守備を免除された彼は多くの時間、歩いている。仲間たちは彼のために身を粉にして働き、ここ一番でメッシに託すのだ。
 
 イラン戦でロスタイムに値千金のゴールを決めたメッシは、ナイジェリア戦でも2ゴールを決めた。
「この大会は、メッシのためのワールドカップになる」
 そんな声が現実味を帯びていった。
 
 だが、決勝トーナメントに入るとメッシは走れなくなった。
 ゴールが止まった。
 スイス戦ではディ・マリアの決勝点をアシストしたが、ベルギー戦、オランダ戦と3試合続けて無得点に終わる。手堅い守りに支えられてアルゼンチンは決勝まで勝ち進んだが、アグエロやディ・マリアが傷つき、攻撃陣の台所事情は厳しくなった。
 
 ドイツとの決勝戦、それまで休んでいたメッシは奮起する。
 21分、アルゼンチンはクロースのミスパスを拾い、イグアインがGKノイアーとの1対1を迎えた。このチャンスは、小柄なメッシが大男のフンメルスに空中戦を挑んだところから生まれた。
 
 空中戦を挑むメッシ。失ったボールを追いかけるメッシ。それは過去6試合には見られなかった姿だった。
 
 重い身体に鞭を打って、メッシは勝負を挑み続けた。
 メッシが走るとチャンスが生まれる。40分にはフンメルスを振り切って、右サイドからペナルティーエリアに侵入。ドイツ守備陣を単独で切り裂いた。
 
 だが、次第に走れなくなった。
 アルゼンチンは粘りに粘ってドイツの攻撃を凌ぎ、逆に延長前半の7分にはパラシオが決定機を迎えたが、決められなかった。やはりアルゼンチンはメッシのチームなのだ。メッシが決めないと勝てない。
 
 敗北を告げる笛が鳴り響くと、メッシは天を仰ぎ、そして試合中と同じように俯いたままピッチを歩いた。涙はない。むしろ堂々としていた。力は及ばなかったが、やれるだけのことはやったという自負があるからだろう。
 
 彼は立派に国を背負った。そしてアルゼンチンの人々に夢を見せたのだ。
 
取材・文:熊崎敬

【写真で振り返る】W杯決勝|ドイツ 対 アルゼンチン

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